わらび座 坊ちゃん劇場の紹介

KokusaiTourist2009-05-11

産経新聞5月11日付けより)

 …前略…会場となった松山市内から車で30分ほどのところにある「坊っちゃん劇場」でミュージカルを観劇した。坊っちゃん劇場は3年前に西日本で最初の地域文化発信のための常設劇場として開設された劇場である(劇団わらび座を誘致)。松山に行くまで知らなかったのだが、評判を聞いて出かけてみた。
演目は「鶴姫伝説」。鶴姫は、今はしまなみ海道が通る瀬戸内海の大三島愛媛県)にある大山祇(おおやまづみ)神社の宮司の娘。戦国時代に陣代として三島水軍を率い、周防(山口県)の大内氏と戦ったと伝えられる。神社にはその鶴姫が着たという鎧(よろい)が残されているが、日本で女性用の鎧が残っているのはここだけだそうである。
 ミュージカルの鶴姫は、龍神の申し子という設定で、海の平和を守る使命を意識しつつ、男勝りに育つ。だが心優しく、人間の憎しみや欲望から戦いが生まれることを悲しみ、なんとか戦をなくしたいとも思っている。「海も大地も人より先にあったのに、それを人が自分のものと言い出す」から戦になる、といったことを述べて、部下で相思相愛の「クロタカ」を驚かせるような姫である。
 −中略−
 歌、音楽、踊り、笛太鼓、それぞれ完成度が高い。悲しいテーマだが、上品かつ気取らない演技で明朗なミュージカルに仕上げてある。老若男女、誰もが楽しめるよい芝居だと思った。
 この坊っちゃん劇場のある東温市は、人口3万5000弱の田園都市。劇場の周辺には田舎の風景が広がる。そこでこういう上質の演劇を見ることができるというのは、正直に言って驚きだった。劇場に出資する地元企業の経営者はもちろん、関係者のなみなみならぬ理解と努力があって、はじめて実現する話だろうと想像する。
 近年、国際政治ではソフト・パワーという言葉がよく使われるようになった。定義はいろいろだが、その国の持つ文化や価値観、あるいは政策などの魅力が他国に与える影響を言うときに使う。国の魅力と簡単に言ってもいいだろう。多極世界の一つの極をめざす国なら、それなりに備えねばならないパワーである。
 ただ国の魅力というものは、政府だけの努力ですぐに出てくるような性格のものではない。それぞれの地域における国民一人一人の生活が物質的にも、また精神的にも豊かになってはじめて、本物になる。その意味で坊っちゃん劇場のように地域に密着し、その文化生活を豊かにする試みが、日本各地でますます増えていくことを期待したい。
(さかもと かずや 阪大教授)
坊ちゃん劇場の詳細は http://www.botchan.co.jp/