“ドクター安達のNPTレポート”その5

大阪民医連社会保障平和委員会委員長で茨木診療所所長、西淀病院副院長の安達克郎様からニューヨークでのNPT再検討会議参加レポートが寄せられました。ご了解をいただき、一部編集のうえ、数回に分けてブログに掲載させていただきます。
日本原水協ニューヨーク派遣団
NPT再検討会議 in New York and San Francisco in 2010
2010年5月1日(土)〜8日(土)茨木診療所所長、西淀病院副院長安達 克郎
6日目その1 2010年5月6日(木) サンフランシスコ 晴れ
ケーブルカーに乗ってみる
8:30 4人でホテルを出て、通りのハンバーガー屋で朝食。少し時間があるので、観光名物のケーブルカーに乗ることにする。ユニオン・スクエアにある始発駅まで歩いていき、5ドルの乗車券を買い、フィッシャーマンズウオーフの終点まで乗る。上り下りが激しく、急ブレーキなどもあり、睡眠不足もたたって気分が悪くなる。時間がないので返りはタクシーを利用した。運賃はチップをつけて12ドル。

午後はリバモ原子力研究所を見学
 ロス・アラモス研究所と競っているアメリカ2大核施設の1つバモア研究所の見学に出かける。Tri‐Valley CAREsというリバモア研究所の監視をしている団体の弁護士 Scott 氏が案内のためバスに同乗する。Tri-Valleyとは、3つの山々に囲まれた谷間にあるこの地域をさし、CAREは Communities Agaist a Radioactive Environmentの略だそうだ。1983年に組織され5600人の活動家がいるとのこと。毎年8月6日には正門前で抗議行動を行っており、最近は2〜3千人の参加だが最高時5万人が参加したこともあると。

バモア研究所はこれまで累積すると広島原爆以上の放射線漏れの事故を起こしており、がんの発生率特に子どものがん発生率が高まっている。地下水、土壌、空気が放射能で汚染されている。こういった事実を住民に啓蒙する活動を行っている。
 また反核核兵器廃絶も運動の課題としており、今年のNPT再検討会議にメンバーの1人を派遣した。また、年1回、2週間ほど国会議員やエネルギー省との交渉に出かけ、同じような団体と一緒に核予算の削減を要求し、研究所を削減させたり、汚染を除去させたりの成果もあったそうだ。オバマ大統領は新型核兵器の開発は止めると言うが、核開発予算は増えている、核兵器をなくすと言っていることと矛盾するのではないかと、世界から指摘されている。
 バモア研究所は1952年に設立、8500人の職員が働いている。多くは研究者で頭脳優秀な人を集めているとのこと。原爆を開発したオッペンハイマーもロス・アラモスで原爆を開発したあと、ここで20年以上働いていたそうだ。設立当初は5千人だった住人が現在15万人と増えている。予算の85%を核開発研究に使っているが、見学者への説明は気候変動への応用など科学研究の成果を奨励するものとなっている、とのこと。FSさんが、まあ私たちの見学は研究所が公式的にどのように説明をしているかを聞きにいく程度と思ってください、議論しても仕方ないですから、とコメントする。
 スコット氏の説明に対して質疑応答があった。
Q:がん特に小児がんが増えているということを州政府は知っているのですか?
A:認めています。小児がんは6倍の発生率です。また、2500人の従業員・元従業員が核関連の病気にかかっていると推測され、私たちは運動によって一部の人に補償金を払わせたりしています。
Q:カリフォルニアは地震が多いといいますが、原子力発電所などへの影響を検討しているのですか?
A:カリフォルニアには2つの原発がある。燃料棒を入れたりするところが問題。1970年以降は原発を作っていないが、オバマ大統領は2010年以降100ヶ所に新たに原発を作るといっている。これは、温室効果ガスの削減のために原発に頼る政策だ。そうすると、最終処理施設が必要だがなかなか住民の反対で思うようにいかない。2〜30年はかかると思う。
Q劣化ウランもここで作っているのか?
A:この研究所の2ヶ所で作っている。
Q:医師や医療従事者はどのように運動に加わっているか?
A放射線研究には予算をつけないし、アメリカは利益追求の医療なので医師に協力してもらうのは非常に難しい。従業員への被爆を調べるスクリーニング検査をサンフランシスコ大学と協力して実施しているが。
Q放射能汚染されている土地なのに人口が増えるのはなぜか?
A:土地は安い、きれいである、犯罪も少ないので住みやすいと言える。この地域はカリフォルニアワインの生産で有名なところ。地域に多くのブドウ畑があるが、トリジウムがブドウに蓄積するのではないかと懸念されている。有名なナパワインもここのブドウと混ぜ合わせてカリフォルニアワインとして売られているので将来が心配。核施設がなければここは非常に住みやすいところとスコット氏も否定しない。そもそもアメリカ人は原発を危険なものと考えていない。そのように教育されている、というか、不利な情報は徹底的に知らせないようにしているから。したがって核研究施設でも大して危険と考えていない。したがって我々の運動が大きな役割を果たしている。
 バスは、予定より早く 12:10に研究所のビジターセンター(現地ではデスカバリーセンターと表示)に着く。
なぜか警官に呼び止められ尋問される
 ビジターセンターは13時に開館ということで、天気もよく、草原がひろがり、そこそこ花も咲いているところもあるので、蝶を探して散策に出かける。黄色い蝶やシジミチョウが飛んでいるのが見えるが、鉄条網の柵で囲ってあり、中に入ることができない。一眼レフデジカメを首からぶら下げ、手にはコンパクトデジカメを持ってうろついていると、前方にパトカーが止まり警官が降りてきて、ちょっとこっちへ来いと手招きをする。

 “What are you doing here?”。と聞かれても、蝶を採っているとは言わないほうがいいと思い、“Just walking around”と答える。ますます不審に思われたのか、“You took some pictures”、“Photos are prohibited?”、“Prohibited”、と言われたので取った写真を見せる。まわりの畑と駐車場での集合写真だけだ。“How did you come here?”、“By bus. I`mfrom Japan to visit the discovery Center of Livermore Institute. I‘m one of the forty people party. The center opens at one o’clock, so I ‘m just walking around here.”。“Show me your passport”。 しっかりパスポートナンバーや名前を控えている。次々とパトカーがやって来て止まる。少し動こうとすると“Don’t move”。
 みんなが安達先生が警官に捕まっていることに気付き、通りの向こうの塀の中からこちらをうかがっている。何人かが取調べ中の写真を取っている。“Are they your party?” 。心配したFSさんやScott 氏が通りの向こう側の方に待機してくれている。警官が彼らの方に通りを横切って歩いて行く。Scott氏とどんなやりとりがあったのか、僕の疑念は晴れ解放された。取調べの写真を撮っていた人のフィルムは消すように目の前で消去の確認をしている。僕も消さないといけないのかと思いカメラをだすとお前は消さなくて良いと?? Scott 氏に“I’m sorry to have bothered you so much. But I’ve had a good experience”と言うと苦笑いをしていた。こういう時は a bad expeience と言ったほうがいいのかな?