中小旅行業平和憲章草案 その1

KokusaiTourist2011-03-01

 2011年2月24日兵庫県旅行業協同組合第35回総会採択
この草案を、総会当日未明に他界された、今はなき楠本 弘前兵旅協理事長に捧げます。
国際ツーリストビューローも加盟する兵旅協が、中小旅行業平和憲章草案を発表し、旅行業界、観光関連業界、市民への普及活動を進めることを総会で確認しました。何回かに分けてその内容を紹介します。
1.はじめに  憲章草案提起の背景と目的

 経済、政治の矛盾が深刻さをましています。雇用、医療、福祉、中小企業経営など国民生活が危機的であるのに、超短命内閣が何代も続き政治が責任を果たせていません。国民の閉塞感はその極みに達しています。
規制緩和」策のもとで交通機関などの低価格競争が激しくなり、高速道路料金の見直しや超低価格の旅館の増加、LCC(格安航空会社)の出現も注目を集めています。そして「安いのは良いこと」という価値観が旅の世界にもひろがっています旅行者数や消費金額の長期下落傾向の中での低価格競争は、旅の価値観の変化や安全・安心感の後退を生んでいます
全国7,000に近い中小旅行業者は、住民のニーズに応え、健全な旅の発展に尽くし地域社会に貢献しています。しかし、需要の減少、「旅行社離れ」、大手旅行社の代理店選別や競争が強まる中で、その経営の厳しさは「待ったなしの状態」です。元々競争力の弱い中小旅行業者が、行政から十分な支援を得ることなく、自力と共同の力でたたかい、全体として“旅の世界”を守っています。
 そんな中で私たちは、『中小旅行業平和憲章草案』をここに提起します。それは、中小旅行業者全体が果たしている役割にふさわしい社会的評価を受け、安定した持続に必要な施策が実施されることをめざして、旅と業界の実態、誇りや願い、業界の展望を示そうとするものです
 
「憲章草案」を作成にあたって、中小旅行業に携わる人々を対象に「中小旅行業平和憲章」(仮称)策定に当たってのアンケート」を実施し、兵庫、大阪、滋賀、三重、京都の100人余から回答をいただきました。(以下「アンケート」とします)それらをふまえて「憲章草案」として提起します。業界内外の率直なご批判、ご意見を賜りたく思います。
中小企業憲章としては、国際的にはEUで「欧州小企業憲章」が制定(2010年)され、実効をあげています。日本では2010年6月に「中小企業憲章」が閣議決定されました。様々な業界から個別の憲章が発信されることによって、閣議決定された「中小企業憲章」が補完され、政策として具体化され実現されることを期待しています。

2.“旅”はいま…

1.旅は人間の本源的な要求!
 「アンケート」によると、旅に抱くイメージや期待について、上位(1,2)番に挙げた回答は“日常からの解放”(1,2回答総数の中で24.2%)が最も強く、以下“癒しの空間”(同16.8%)“非日常の世界” (16.3%) “自由満喫”(7.4%)など、人間の内面に関わるものが上位に連なっています。
一方、外的な関わりのものについては、“風光明媚な景勝地”が11.6%、“自然との触れあい”が6.8% 、“歴史文化を学ぶ”が3.7%、家族や同伴者との親睦、行き先での交流など人間関係に関わるものは4項目あわせて12.6%となっています。
旅の動機付けは、解放感・癒し・自由など人間の内面を充たすことがもっとも強く、物見遊山や学び・体験、交流など外的要因との関わりでの充足が次に続きます。「旅にでも行きたいな。さてどこへ行こうか…。」ということでしょうか。もちろん、行き先や個々の目的が先にあって旅を計画するのも多いですが、やはり旅の本質は、人間の内面の充足にあるようです。
私たちの祖先が一定の条件のもとで、定住を始めてから、旅(=移動)は、非日常のものとなり、人は、未知へあこがれ、新しい発見と自由を求め、旅への期待を抱き続けてきました。それは、定住の安全確保はもちろん、経済的、社会的、自然的条件による移動の制約、を乗り越える力になったに違いありません。
 旅は太古の昔から人間の本源的な要求であり、近年では権利として定着しつつあります。    
 日本人で初めて新婚旅行をしたとされる坂本龍馬も、様々な制約の下でたどりついた霧島の山上の解放感と癒しの中で封建社会に替わる「自由社会」を誓ったのでしょうか。現代では、定住の環境が経済的にも社会的にも厳しくなり、解放感、自由、癒しなどが旅への期待としてより強く意識されるようになりました。

2.旅行消費総額は15年間に3/4に激減!
 15年間の旅行規模の推移を比べてみました。2009年の旅行人数は、延べ3億455万人で1994年の3億3,387万人から2,932万(8.8%)減っています。海外旅行は187万人(13.8%)増ですが、国内で3,119万人(9.7%)もの減少でした。
一方消費額は、13兆2,300億円で94年の17兆8,446億円から4兆6,146億円((25.9%)と激減です。国内旅行で約3兆1,223億円(25.3%)、海外旅行で1兆4,923億円(27.2%)も減らしています。
また、1回の旅行の平均消費額では、国内旅行が94年の38,566円から31,940円に、6,626円(17.2%)の減少、海外では404,798円(94年)から259,200円(09年)と、145,598円(36.0%)もの減少となっています。94年には2.67回だった一人当たりの平均回数(国内外旅行)は、2009年には0.37ポイント減の2.30回までに下がりました。
(数字は、日本旅行業協会発行の“数字が語る旅行業2010”より。国内旅行は、宿泊旅行のみ)

新聞は連日の旅広告、テレビは旅番組が花盛り、各地では“観光町おこし”の競い合い、そして国民の閉塞感の強まる中、旅の潜在需要は増えているはず。それでも旅の実需は減っているのです。
この15年間の推移をみると、消費額は2000年を境に94年比で減少に、06年からさらに大幅な減少に転じています。旅行人数は2004年からマイナスに転じて以後下がり続けています。2000年代初頭に始まった「国民の痛みを伴う」「構造改革」の政治が影響しているのでしょうか。戦争やテロやサーズ、新型インフルエンザ、自然災害も大きく需要に影響してきました。最近では雇用や就職の問題で、若者の海外旅行や留学も減っています。旅行需要は間違いなく政治、経済、世相を反映します。