前高知県梼原町長・中越武義さん 自然エネルギーで町づくり

北に瀬戸内海、南に太平洋を望む四国カルスト台地の頂上近く。標高1300メートルの緑の草原に、高さ50メートルの真っ白なデンマーク製の風車2基がゆったりと回る。日本で最も高地にある風力発電所だ。 高知県梼(ゆすはら)町の町長として2009年までの12年間、風力、太陽光、地熱、小水力、バイオマス自然エネルギーを次々に採用した。「自然と共生するまちづくり」の成果をさらに全国に広めようと4日、「こうち健康・省エネ住宅推進協議会」会長に就任した。
 環境問題への取り組みは町長就任の翌年から。風況調査をし、1999年に風車を設置した。2基で1200キロワットを発電し、300戸分の電力を得た。人口4千人足らず、税収3億円の町で2億2千万円をかけた。発電した電力を四国電力に売った。
 自然から生まれたエネルギーなら自然に返そうと、風力発電で得る年間4千万円の収益を、環境基金として積み立てた。それを他の自然エネルギー採用の財源にするという循環をつくることに努めた。
 町の91%を占める森林は荒れたまま放置されていたが00年、森林づくり基本条例を制定し、「森との共生」に乗り出す。5ヘクタール以上の間伐や手入れをすれば、1ヘクタールあたり10万円の交付金を出した。森がよみがえり、雇用が生まれた。
 間伐で切った木は木質ペレットに加工し、バイオ燃料に活用した。心身のリフレッシュに役立つ「森林セラピー」のコースを整備すると、観光客が東京からもやってきた。
 森で湧いた清水は四万十川の源流となる。水の力をうまく生かそうと6メートルほどの高低差を利用し三つの小水力発電所を造った。発電した電気は昼間は町立の中学校に、夜は町の街路灯に使っている。
 役場や学校など町立施設のすべてに太陽光発電を付けたほか、地熱を利用して25メートルの温水プールを造った。町民に対しては、太陽光発電を取り付けた家にキロワットあたり20万円の助成も。今は100戸以上が太陽光パネルで覆われ、普及率は四国で一番だ。
 これだけ多彩な環境政策の策定をトップダウンでなく、町民を前面に立ててやってきた。公募した町民15人に欧州を視察してもらい町づくりの提案を得た。
 「地域が一体となって、一つの目的に進みました」
 しかも財政は県内トップの健全性と安定性を誇る。山奥の過疎の町に、7人もの医者がいる。町立病院の経営は黒字を続けている。
 自信がさらに行動につながった。隣町で放射性廃棄物の最終処分場を誘致する動きが出たときは、他の自治体に先駆け反対を表明した。09年に政府の環境モデル都市に選ばれた際には、風車を40基に増やし、エネルギー自給100%を目指すことを宣言した。
 柔らかな物腰と果敢な行動力で町政を変革し、惜しまれつつ自ら退いた。今は名刺の肩書に「百姓、土方、山防人(やまさきもり)」と書く。裏には風車の写真に「国家の実力は地方に存する」と記す。
 国政が地方を切り捨てる時代に、地方の実力を実績を持って主張する。

(文・伊藤千尋 写真・小杉豊和) (2011年6月11日 朝日新聞朝刊「be」から)