○○渡 月 橋

KokusaiTourist2011-06-15


WEBマガジン『福祉広場』連載“千代野ノート”第328回から転載
http://www.fukushi-hiroba.com/book/note_f.html 
 人間知らない時と知ってからの「落差」がかくも違うかと、我ながら思う。
4月に入り、福島原発事故で節電情報がメディアを賑わし始めた。周波数の違いで西日本の電力を東日本に充分送れないと。小さい島国のこの国のこの事情は、世界的にも稀。
  明治時代東日本はドイツ製、西日本はアメリカ製の発電機を購入したのが原因とされるが、60数年前の大戦後も無作為にされた結果だと。どうも腑に落ちないので関西電力京都支店を訪ねるも、回答は期待外れ。こういう問題はやはり現場の労働者に聞くべしと電力労働者OBを大阪に訪ねた。質問趣旨にいろんな資料を持ち出して好意的な応対をしていただいたが、やはりここでもスパッとした回答は見出せなかった。お礼を言って退室しようとすると「富田さんは京都やね。そんならこれ知ってるわね」と出されたのが先方の機関紙のトップ記事写真。そこには嵐山の小水力発電装置。私「エエッ! よく行く場所なのに知りませんでした。大阪の人から教わるなんて恥ずかしい」と言うのが精一杯。
 嵐山観光のシンボル渡月橋。その上流100m程、逆に言えば保津川下り着船場から100m程の「一の井堰」に備え付けられている。この堰の170cmの落差を利用しての水力発電、最大出力5.5キロワットというから二世帯分の供給電力で、これが実は渡月橋のライトアップ用というから心憎い。
 そして5/9の地元紙は、全国の小水力発電の紹介記事で、写真や小見出しはこの発電機の事。そして極めつけはそれから数日後の5/12同紙の凡語欄。(朝日新聞の「天声人語」欄と同様)締め部分が良い。「…思えば明治時代に、日本で最初の水力発電所が造られたのも京都だ。わが国初の市電はその電力で走った。1世紀を経て再び京都がリード役となり、自然エネルギー活用を発信したい」。
 早速記載の運営主体、嵐山保勝会・担当者を訪ねた。
不意の訪問にも心地良い応対。担当者「一級河川での小水力発電は全国唯一ここだけです。動機は、夜真っ暗な渡月橋の交通安全でした。6年前出来ました。何といってもあの170cmの『筏落とし』があったので簡単に設置できました。その『筏落とし』は400年前の角倉了以さんの功績です」。

 角倉了以…。(323回参照)「170cmのこの落差」が400年の歳月を超えて、現代の自然再生エネルギーを現実の物にした。知ってしまった以上、私に出来るのは「この落差」を語る事しかない。
上記連載筆者は、当労協国際ツーリストビューロー理事長の富田秀信