東北観光復興へ(3)

インバウンドの対策
海外が求める「安全」の明示、情報の発信への課題


 各国大使館や外国航空会社、各国政府観光局関係者が参加した今回のJATA東北視察では、観光地のみならず津波の被災地の車中視察も組み込まれていた。訪れたのは被害が大きい石巻市の工業港とその周辺。東北自動車道をおりて沿岸部へ近づくにつれ、浸水した田んぼやつぶれた自動車、倒壊した家屋などが現れる。写真や映像で見るのとは違う衝撃を受けたようで、車内はしばらく静かになったほどだ。外国からの参加者からは、自然災害の脅威を学ぶことを目的に被災地の一部を残すことを提案する意見も聞かれた。

 視察後の現地観光関係者との意見交換会では、風評被害を払拭したい東北側と、海外の見方を知る参加者側との認識の相違が見られた。東北観光推進機構は、地震津波の被害を受けた場所は限定的であり、被災していない観光地の方が多く、通常観光ができることをアピールしたが、参加者からは「海外では放射能など、怖いことが起こっていると思われている。これに対して、どのように情報を出そうとしているのか」(インド大使館ミッションチーフ代理・パンダ氏)、「欧州各国が参加会議に参加した際、日本から発する地震原発の情報が少なすぎるという話があった。海外では『東北』はなく『日本』というくくりになる」(ビジット・フィンランド日本代表・能登氏)という指摘があった。
 東北観光推進機構は、放射能関係のデータは国の専門セクションが出していると回答したが、出席者からは観光地とリンクした情報提供を求める声が多い。会議後にも「地震津波放射能はパッケージ。全部の安全が認識される必要がある」(チャイナエアライン日本地区マーケティング本部長・藤井氏)という意見も聞かれた。このうち、目視で確認できない放射能については、観光地や交通機関などに線量計を取り付けて、誰もが常に見られるようにするのも一案だろう。
また、日本の現状を正しく分かってもらうために「現地のメディアを招聘してほしい。現地で報道する側も、震災のダメージの印象が強い」(ガルーダ・インドネシア航空マーケティングマネージャー・児玉氏)という提案もあった。今後のインバウンド誘客にはこうした海外の視点を意識した施策も必要だ
今回のJATAの視察旅行は、参加者に東北観光の現状を本国へ正しく報告してもらうのが目的で、JATA理事長の柴田氏も「東北の観光の現状を視察してもらった上で、情報発信についてのよい反省材料も得られた」と、成果を評価。課題については、JATAとして努力していく意思を示した。