玄海原発 見切り“再開”では困る

東京新聞2011年7月1日社説

 定期検査中の九州電力玄海原発2、3号機について、佐賀県知事が運転再開を認める姿勢を見せた。福島の惨状を目の当たりにしながら、なぜ見切り発車へと急ぐのか。安全は置き去りなのか。
 現在定期検査などで三十五基の原発は止まったまま、震災後、再開には至っていない。
 古川康佐賀県知事は「原発の安全性の問題はクリアされた」という。だが何が、どう安全なのか、具体的な説明はできていない。
 九州電力は四月、福島第一原発の事故を踏まえた緊急安全対策を打ち出した。非常電源車の配備、仮設給水ポンプの設置など応急処置は終えている。しかし、原子炉の安全停止に導く本格的な設備には、まだ時間がかかるという。
 津波対策だけで安全が確保されるわけではない。原子力安全委員会は、原発の安全設計審査指針の見直しに着手したばかりである。改定には、やはり数年かかる。
 海江田万里経済産業相は、定期検査中の原発について「きちんと責任を持つ」という。どのように責任を持つというのか、こちらも明確になっていない。
 福島の事態収拾は一向に進まない。原発が大事故を起こした時に有効な対応策を、私たちはまだ持ち合わせていない。
 政府には相変わらず、夏本番前に原発稼働再開ありき、の思惑が見え見えだ。佐賀県は他地域に先駆けて、使用済み核燃料からプルトニウムを抽出、再利用するプルサーマル計画に同意した。歳入の六割を原発に依存する地元玄海町長は、早期再開を求めていた。
 疑うのなら、首都圏や関西圏からも遠く、説得のしやすそうな地域で先鞭(せんべん)をつけ、後は“容認”の連鎖を待つという政治的思惑すら透けて見えそうだ。だが、もしそうなら国民の不安はさらに増す。
 経産省が二十六日に佐賀市で開いた説明会では、質問一分、回答二分という進め方が、住民の不信を募らせもした。
 十三基の原発を抱える福井県知事は、再開に不同意の姿勢を崩さない。隣の滋賀県知事が「関西の水がめ、琵琶湖があります。浜岡以外は安全だと言われても、どう信じれば」と述べるなど、原発再開は、立地県だけの問題ではなくなっている。
 その安全性が十分に立証もされず、エネルギー政策の未来図が示されない中で、国民は一体何をどう判断すればいいのか。時間と議論が必要だ。