「協同組合憲章(仮称)」の策定

2012協同組合年全国実行委員会の重要な取り組みの一つである「協同組合憲章(仮称)」の策定については、(1)協同組合のアイデンティティと存在価値を協同組合自身が再確認すること、(2)協同組合運動に対する社会と政府の認識度を高めること、(3)政府に対しては、協同組合に関する政策を整備・充実するための指針を示すこと、を目的にすすめられてきました。2012協同組合年全国実行委員会幹事会の基に設置された「協同組合憲章検討委員会(委員長:聖学院大学教授富沢賢治他21委員)において検討が進められ、第1次案が7月14日の全国実行委員会に報告され了承を得たことから、今後、各協同組合組織における討議、パブリックオピニオンの募集を経て、2011年12月を目途に最終案をまとめる方向となっています。

協同組合憲章 草案 (第1次案)
1.前文
世界は現在、経済的不況、環境汚染・エネルギー問題、多くの発展途上国人口爆発と先進国の少子高齢化、頻発する地震津波・噴火などの自然災害により、危機に直面している。なかでもわが国は、2011 年3 月11 日に発生した東日本大震災とそれにともなう原子力発電所事故によって、これまでの国土開発政策、エネルギー政策、社会経済政策、地域経済と地域社会づくりなどに、根本的な反省を迫られている。
一方、世界では発展途上国を含む多くの国で民主化が進み、市民の選挙によって生み出された政府が国づくり・社会づくりのイニシアチブを発揮するようになってきている。各国の市民社会化とともに国際社会の市民社会化が進み、各国が協力して社会経済問題に取り組む動きが強まっている。このような状況下で、市民たちが協同しておこなう事業と運動としての協同組合の意義が世界的に高まってきている。
協同組合は、組合員が出資し共同で所有し民主的に管理する事業体をつうじて、共通の経済的・社会的・文化的なニーズと願いを満たすために、自発的に手を結んだ人びとの自治的な組織である。(付属文書参照) 協同組合は、相互扶助の非営利の組織として、国民経済の一翼を担っている。
世界的金融・経済危機の下で、また、市場至上主義への危惧が表明される国際的潮流のなかで、2009 年12 月、国連総会は、2012 年を国際協同組合年と宣言する決議を採択した。この決議は、世界各国の社会経済開発において協同組合がこれまで果たしてきた役割と、今日の社会経済問題の改善に貢献する可能性を評価したうえで、全加盟国の政府と関係者にたいし、この国際年を機に、協同組合への認知度を高め、協同組合を支援する政策を検討するよう促している。
国連のこの要請に応えることは、日本の協同組合と政府の責務である。協同組合は、自らの努力によって協同組合運動をいっそう発展させなくてはならない。また、政府は、協同組合の発展を促進するための制度的枠組みを整備しなければならない。
日本歴史上未曽有とされる東日本大震災では、政府による公的支援が遅れるなかで、多くの協同組合が、これまで培ってきた協同のネットワークを活用して、被災住民への支援を積極的に行なった。協同組合以外の分野でも、至るところで市民による多様な被災地支援が行なわれ、共助・協同への関心が高まった。社会を安定化させるためには、自己責任(自助)と政府の援助(公助)だけでは不十分であり、人びとの助け合い(共助)が必要だという社会認識が広まっている。
人びとの助け合いの絆を強化し、無縁社会を友愛社会に変え、疲弊する地域経済を活気づけ、日本の新しい未来を切り拓くためには、社会経済政策等の整備とともに、協同組合の発展が不可欠である。
協同組合を今後いっそう発展させるための基本的な理念と原則とを明らかにし、さらに政府にたいして、協同組合全体を貫く協同組合政策の基本的な考え方と方針を明らかにするよう求めるため、ここに協同組合憲章草案を定める。
2.基本理念
近代的協同組合の起源は、19 世紀の産業革命のもとで労働者、農民、消費者たちが生活を守るために自発的に取り組んだ協同の活動であった。協同組合は、イギリスの生活協同組合、ドイツやイタリアの信用協同組合、ドイツやデンマーク農業協同組合、フランスの労働者協同組合など、多様なルーツをもっているが、その共通の基本理念は、組合員の自助と共助、すなわち協同であった。協同組合は、経済的公正を求めて、経済的弱者の地位の向上に努めるとともに、組合員の出資参加・利用参加・運営参加といった参加型システムを発展させることによって、民主主義の学校としても機能してきた。協同組合はまた、「働きがいのある人間らしい仕事」を創出する主体として、その発展が期待されている。
今や協同組合の理念は世界中に広がり、現在、国際協同組合同盟(ICA)は、92 カ国の協同組合・約10 億人の組合員を擁する、世界最大の国際NGO となっている。
このことは、世界が自由と平等のみでなく、それに友愛の原理を加えて安定した社会をつくろうとするようになってきたことの表れである。
日本でも、古くから講や結いなどの助け合いの仕組みが存在した。江戸時代末期には、大原幽学の指導で「先祖株組合」、二宮尊徳の指導で「小田原報徳社」など、道徳と経済を結びつけた萌芽的な協同組合が誕生した。明治以降は、海外の近代的協同組合の思想と実践が紹介され、当時の産業組合法のもとで、都市や農村においてさまざまな協同組合が産声を上げた。第二次世界大戦後も、各種協同組合法のもとで協同組合が設立され、協同組合は日本の社会経済、民主主義の発展に貢献してきた。普通選挙を基礎とする民主主義が定着し、市民が主権者になるとともに、普通の市民の事業としての協同組合が発展し、経済的・社会的に重要な役割を果たすようになってきた。「一人は万人のため、万人は一人のため」という言葉に集約される協同組合運動の思想が、国民各層に広く浸透してきた結果である。
今や日本は、延べ9,800 万人の組合員と57 万人の職員を擁する、世界でも有数の協同組合が活動する社会となっている。これらの協同組合は、主として農林漁業、商工業、金融、共済、消費生活などの経済の領域で活動してきたが、近年は医療・福祉、子育て支援、仕事おこし、買い物弱者への生活必需品の供給など、地域社会全般にかかわる公益的活動を強化させている。
阪神淡路大震災以降、NPO などの市民組織が取り組む公共的な活動の重要性が注目されるようになってきた。これは、政府が担う「公」と区別され、「新しい公共」と呼ばれているが、市民の自発的な協同の組織として公益的活動に取り組む協同組合は、新しい公共の担い手として位置づけられる。協同組合が新しい公共の担い手としていっそう成長していくためには、協同組合同士の協同を強め、地域住民やNPO などのさまざまな組織と連携し、さらに行政との協働を促進して、地域社会のために活動することが必要とされる。
3.政府の協同組合政策の基本原則
新しい公共の領域を発展させるためには、協同組合の自主的努力が必要とされる。そして、協同組合の自治と自立を尊重し、社会経済開発に貢献する協同組合の活動を支援する政府の役割が重要となる。政府は、協同組合政策に取り組むにあたって、基本理念をふまえたうえで、以下の原則を尊重すべきである。
(1) 協同組合の価値と原則を尊重する。
国連の「協同組合の発展に支援的な環境づくりをめざすガイドライン」(2001 年)と、国際労働機関(ILO)の「協同組合の促進に関する勧告」(2002 年)に留意し、ICA の「協同組合のアイデンティティに関する声明」(1995 年、付属文書)に盛り込まれた協同組合の価値と原則を尊重する。協同組合にさまざまな政策を適用するさいは、協同組合の価値と原則に則った協同組合の特質に留意する。
(2) 協同組合の設立の自由を尊重する。協同組合制度は、すべての市民に開かれている。政府は、市民が協同組合を設立する自由を尊重する。
(3) 協同組合の自治と自立を尊重する。
協同組合が積極的に自治と自立を確保・維持することを重視し、政府と協同組合との対等で効果的なパートナーシップをすすめる。
(4) 協同組合が地域社会の持続的発展に貢献することを重視する。
協同組合が地域社会の持続的発展に貢献することをめざしている点を重視する。震災復興などにあたっては、地域経済の有力な主体としての協同組合を有効に活用する。
(5)協同組合を、社会経済システムの有力な構成要素として位置付ける。
これからの社会経済システムには、多くの人びとが自発的に事業や経営に参加できる公正で自由な仕組みが求められる。そのために、公的部門と営利企業部門だけでなく、協同組合を含む民間の非営利部門の発展に留意する。
4.政府の協同組合政策の行動指針
政府は、具体的な協同組合政策に取り組むにあたっては、上記の基本理念と基本原則をふまえたうえで、下記の行動指針を尊重すべきである。
[協同組合の活動の支援]
(1) 協同組合が地域の社会的・経済的課題の解決に取り組むさい、その活動を支援する。
協同組合が安全・安心な食料などの確保、金融へのアクセス、地域の雇用・福祉・医療・環境・教育問題等の解決に取り組むさい、その活動を支援する。
(2) 地域のニーズに即した新たな協同組合の設立を支援する。
都市や農山漁村で市民の自主的な経済活動を促進し、就業機会を増やし、地域社会の活性化を図るために、地域のニーズに即して地域のさまざまな関係者や関係団体が参加できる「複合型協同組合」や、市民が協同して出資・経営・労働する「協同労働型の協同組合」など、新たな協同組合の設立を支援する。また、再生可能な自然資源を活用した協同組合方式の分散型エネルギー供給事業の創設を支援する。
(3) 地域社会の活性化を図るために、協同組合など地域社会に根ざす諸組織を支援する。地域社会の活性化を図るために、協同組合振興条例やまちづくり条例などを制定し、協同組合・NPO自治会など、地域社会に根ざす諸組織を支援する。
(4) 協同組合に関する教育・研究を支援する。
協同組合について理解する機会を増やすために、協同組合に関する教育を学校教育に導入し、大学において協同組合研究の機会を増やす。また、女性、高齢者、障がいのある者、自然災害の被災者たちが協同組合をつくるさいに、必要な教育と職業訓練の機会を確保する。
(5) 協同組合の国際的な活動を支援する。
地球温暖化、飢餓、貧困、社会的排除、多文化共生などに貢献する協同組合の国際的活動を支援する。また、発展途上国の協同組合の育成を支援するために、政府開発援助(ODA)の拠出等の支援をおこなう。とりわけ、国連のミレニアム開発目標への協同組合の貢献を強化するために必要な対策と支援をおこなう。
[適切な協同組合政策の確立]
(6) 協同組合に関する統一的な行政窓口を確立する。
協同組合政策の推進・調整を図るために、統一的な行政窓口を開設する。
(7) 協同組合の制度的枠組みを整備する。
協同組合が新しい公共の担い手として取り組めるよう、協同組合に関する法制度について必要な見直しをおこなうとともに、協同組合に共通する法制度についての検討を進める。また、税制、会計基準自己資本規制などについて検討するにあたっては、協同組合の特質に留意する。
(8) 協同組合における定款自治の強化を支援する。協同組合の地域的条件、事業内容、規模などに対応して柔軟な制度設計が可能となるよう、協同組合の事業運営やガバナンスにおける定款自治の強化を支援する。
[協同組合の実態把握]
(9) 協同組合についての包括的な統計を整備する。
協同組合が経済活動に与える影響を評価するために、包括的な協同組合統計を整備する。
(10) 協同組合の社会的貢献について調査する。
協同組合の社会的役割を評価するために、協同組合による人づくり、絆づくり、まちづくり、自然環境保全活動などの社会的貢献について調査し、その結果を公表する。
5.むすび世界的金融・経済危機、大規模自然災害等で、協同組合は社会経済を安定化させる役割を果たしてきた。経済と社会がグローバル化するなかで、協同組合は、地域社会に根ざし、人びとの助け合いを促進することによって、生活を安定化させ、コミュニティを活性化させる機能をもつ。
国際協同組合年を契機として、協同組合は、政府や自治体との協働を促進し、新しい公共がめざす「人びとの支え合いと活気のある社会」の実現を図る決意を表明する。また、政府は、コミュニティを活性化するうえでの協同組合の役割を認識し、協同組合セクターの発展を支援する。