防衛局長更迭 沖縄は陵辱の対象か/露呈した政府の差別意識

琉球新報11/30社説より

 米軍普天間飛行場代替施設建設の環境影響評価(アセスメント)「評価書」の年内提出を明言しない一川保夫防衛相の姿勢をめぐり、田中聡沖縄防衛局長が「(犯す前に)これから犯しますよと言いますか」などと発言した。
 全国の米軍専用施設(面積)の4分の3、在日米兵の約7割が集中する沖縄では、軍人が女性を乱暴する事件が過去に何度も起きている。そのような悲しい事実を知りながら、評価書の提出を性的暴力に例えるのは常軌を逸した言動だ
 県民をさげすみ、陵辱される対象と捉える意識が透けて見える。人権感覚を欠いた人物は局長の任に値しない。更迭は当然だ。官僚の体質表れた
 発言があったのは28日夜、報道陣との非公式の懇談会の席だった。防衛相が「(評価書を)年内に提出できる準備をしている」との表現にとどめ、確言を避けているのはなぜかと問われ、飛び出した。いくら非公式の席でも、言っていいことと悪いことがある。
 県内では1995年に駐留米兵による少女乱暴事件が発生した。県民の積年の怒りが爆発し、主催者発表で8万5千人が結集する超党派の10・21県民大会が開催されている。
 大会で決議した(1)米軍人・軍属による犯罪の根絶(2)被害者への謝罪と完全な補償(3)日米地位協定の見直し(4)基地の整理縮小―の4項目の要求が、普天間飛行場返還の日米合意につながったのは周知の通りだ。
 田中氏は以前にも那覇防衛施設局(現在の沖縄防衛局)に勤務した経験がある。兵士を加害者とする性的被害の実態も熟知しているはずだ。全て分かった上で不適切な発言が口をついて出た。沖縄蔑視の表れと見ていい
 これはひとり田中氏だけの問題なのか。基地政策に携わる官僚の意識の中には、多かれ少なかれ「沖縄は永久に被害者であり続ける」という差別感覚が潜んでいる。だから、大多数の県民が普天間飛行場の県外・国外移設を求めても沖縄に基地を押し付けるという結論しか導き出さない。
 懇談会の後、沖縄防衛局は琉球新報の取材に対し「発言の有無は否定せざるを得ない」と誠意のないコメントで切り抜けようとした。都合の悪い面に口をつぐむのは政府の常とう手段だ。
 藤村修官房長官は29日の記者会見で「事実なら看過できない」と早々と処分する考えを示した。一川防衛相は同日の参院外交防衛委で「沖縄の皆さんに大変な思いをさせ、心からおわびしたい」と陳謝している。その前に本人から謝罪の言葉を聞きたかった。
 沖縄防衛局は米軍再編を含め防衛省の施策を地元に丁寧に説明することを主要業務の一つに掲げている。実態は「丁寧な説明」など、お題目にすぎない。
基地押し付ける機関
 防衛省はことし、米軍の沖縄駐留の必要性を説く冊子「在日米軍海兵隊の意義及び役割」を作製した。
 沖縄を「朝鮮半島台湾海峡といった潜在的な紛争地域に迅速に到達可能」と位置付ける一方で「部隊防護上、近すぎないことが重要」と小さめの活字で補足するなど、こじつけとしか受け取れない文言を羅列している。
 県は「近い(近すぎない)とは具体的な距離として何キロ程度、移動時間として何時間程度を意図しているのか」「位置関係において、米軍が国内の他の都道府県に駐留した場合、迅速に事態に対応できなくなるのか」などとただす質問書を6月1日に防衛省に提出した。半年たった今も回答はない。
 本来、真っ先に疑問に答える努力をすべきなのは沖縄防衛局だが、本省と県の間で知らん顔を決め込んでいる。事実上、過重な基地負担を維持するために置かれているのが防衛局だ。
 沖縄県の面積は国土の0・6%にすぎない。残る99・4%の都道府県、もしくは国外に移せる場所がないと言い張るのは、最初から沖縄以外に移す意思がないからだ。
 防衛省や外務省の中では、基地が沖縄だけに集中する差別構造の解消に乗り出す動きは全く見られない。
 田中氏は、名護市辺野古への代替施設建設を「犯す」と表現することで、県内移設が正義にもとる行為だと自ら白状した。防衛局長の暴言で問われているのは正邪を顧みない政府の姿勢だ。