交通機関分野には規制緩和でなく今こそ規制が必要!

2011年2月、国際ツーリストビューローも加盟する兵旅協が、『中小旅行業平和憲章草案』を発表しました。旅の安全に関わる部分を紹介します。
1.はじめに  憲章草案提起の背景と目的
中略
規制緩和」策のもとで交通機関などの低価格競争が激しくなり、高速道路料金の見直しや超低価格の旅館の増加、LCC(格安航空会社)の出現も注目を集めています。そして「安いのは良いこと」という価値観が旅の世界にもひろがっています。旅行者数や消費金額の長期下落傾向の中での低価格競争は、旅の価値観の変化や安全・安心感の後退を生んでいます。

中略

3.最近の二つの特徴−
安全・安心の後退と旅の“多様化・個性化”
 旅の現状を問う「アンケート」では、“団体でなく少人数での旅が増えている” (29.4%が1位回答)が最大の特徴として指摘されています。続いて、“価格競争で安全と質の低下が心配”(同26.4%)、“旅の価格・質の二極分化の傾向”(同14.2%)、“安近短の傾向の強まり”(同6.6%)が挙げられています。さらに“テーマ・目的の明確な旅の増加”(同6.6%)、交通機関の過当競争で安全性が低下”(同5.1%)、“商品化されすぎ…”(同3.0%)が続きます。
?“価格競争で安全と質の低下が心配”の声が業界から
 “いつでも、どこへでも、誰でもが、安全に”という、人間本来の移動の自由に由来する『旅の権利』からみれば、安全や質の後退、「二極分化」などは憂うべき状態です
 安全確保が大前提である交通機関に、利潤第一の競争による安全、安心の後退はあってはならないことです。また、「低価格競争」は、食、泊、サービスなど旅の質の低下にもつながりかねません。解放感、自由、癒しを求めて旅に出る人々を迎える側の人的サービスにも影響を与えます。双方の満ち足りた笑顔こそ旅に欠かせないものです。
 “旅の価格と質の二極分化”とともに“安近短”が多くなっているのは、“二極分化”といいながら、実際は多数の人々が様々な制約のもとで“安近短”の旅行を選択せざるをえなくなっているということでしょう。

中略

1995年6月、はじめて“旅が権利である”ことを盛り込む一方、航空運賃などの季節波動を奨励した観光政策審議会の答申(「今後の観光政策の基本的な方向について」)がありました。これを契機に、交通観光分野での「規制緩和」が進められ、観光分野で価格競争と経済的合理性がより強まることであり、観光政策が経済政策の一部に組み込まれることでもありました。


3.旅の関連業界は…
 「安全・安心」より「低価格・利便性」の流れに‥
?「規制緩和」策の下、「選択肢」の提供で「価格競争」は「野放し状態」
観光関連の施設の安全・安心は旅の大前提です。「安ければいい」「速ければいい」ではその役目を果たしたとは言えません。ただ、シェア拡大のため低価格競争に走り“目先のこと”に目を奪われている感があり、「規制緩和」策の下で、それは「野放し状態」といえます。
行政施策としての、高速道路の土日1,000円や“無料化社会実験”の動きは、国民の間に「安いときに動こう」「安いことは良いことだ」といった「価値観」を広めただけでなく、競合する交通体系にも経営危機、廃業などの大きな影響を与えています。

?宿泊の「超低価格料金」の広がりは和風旅館のあり方を変えないか
和風旅館に泊って2食付で〜7,000円といった料金がインターネットなどで拡がっています。仕入値の極端な押さえ込み、人件費の大幅な削減、厳しい労働条件、安全・衛生面の「軽視」などにより、旅行者に十分な満足感をもたらすのかという不安があります。また、伝統的な日本の旅文化の一つである和風旅館のあり方が変わるのではないかとの心配もあります。「アンケート」では、80%が、こうした「超低価格」の広がりを、“あまりよくない(34%)“よくない”(46%)としています。
?空港配置、ハブ空港など基幹交通政策は国が責任あるビジョンを示すべき
空の世界では、JALの「倒産」、関空「経営破綻」、LCC(格安航空会社)の登場ANA参入、乱立地方空港の赤字など、問題が噴出しています。さらに、航空会社の「一方的」な燃油サーチャージの「固定化」や旅行業への送客手数料の削減も問題です。
羽田空港が国際空港として再開港しました。韓国の仁川、シンガポールチャンギ空港などはアジアのハブ空港としてすでに機能しており、成田との一体活用のハブ空港といってもその見通しは厳しいでしょう。利用者の利便性や経済活性化にとって、ハブ空港が必要であるなら、国は早くから明確なビジョンを示す必要があります。これまでの、競争促進、規制緩和施策を見直し、利便性と安さだけでなく、安全こそ第一の柱とし、国民の命と安全を預かる国としての責任あるビジョンが求められます。
?シェア拡大競争は安全・人権の「軽視」を生み、そのツケは利用者に
日本航空の問題も同様です。日航自体の放漫経営だけでなく、空港配置を地方任せにし、ナショナルフラッグとして就航を求めて、さらに規制緩和により路線参入や撤退の自由化をすすめた航空行政にも問題があります。ベテランパイロットやキャビンアテンダント160人の整理解雇を強行するなどの、安全や人権を無視した「再建」が何をもたらすか目をそらす訳にはいきません。
シェア拡大競争に走る航空会社と「規制緩和」をすすめる航空行政は、安全の軽視につながり、事故の危険を増やし、そのツケは利用者が負わされます。

中略

4.観光行政は…
 インバウンド増大より国内需要の喚起策にこそ本腰を!
2008年秋に設置された観光庁は、各種目標数字の設定や、地域集客プラン策定を呼びかけますが、未だ顕著な成果をみるには至っていません。
?インバウンド以外は目標設定時点(2007年)より減少‥!
観光庁の政策目標のトップには、インバウンド(訪日観光客)を2010年に1,000万とする目標(2007年835万人)と、「国際競争力のある魅力ある観光地づくりへの支援」を掲げていますが、世界的な経済不況と円高状況下では、達成はむつかしく、他の目標は設定時点より下回っています。

中小旅行業平和憲章草案全文は次のとおりです。
その1http://d.hatena.ne.jp/KokusaiTourist/20110301
その2http://d.hatena.ne.jp/KokusaiTourist/20110304/p2
その3 http://d.hatena.ne.jp/KokusaiTourist/20110307
その4 http://d.hatena.ne.jp/KokusaiTourist/20110310