交通運輸分野の「規制緩和」策をやめ、安全・安心に必要な規制策を講じよ

関越道のツァーバス事故の背景と問題点2012/06/20 
松岡 武弘(兵庫県旅行業協同組合理事/労協国際ツーリストビューロー理事)

1.旅行等を取り巻く環境の変化
1.近年の潜在需要の増大は増大してると思われる前提として、旅は人間の本源的要求。
加えて先行き不安・閉塞感漂う社会、労働強化などからの一時的「解放感」への期待
日常に溢れる旅への誘い(旅番組、新聞広告、地域興しなど)
2.しかし旅行需要の減少・停滞 (94年から09年の15年比較) 
    国内旅行人数(宿泊伴うもの)32,029万人から28,910万人 2,219万人減(△9.7%)
国内旅行消費額(同上)123,523億円から92,300億円 31,223億円減(△25.3%)
    平均消費額(同上、1人1回当たり)38,566円から31,940円  6,626円減(△17.2%)
3.旅は「安・近・短」指向に、「やむなく」「無理」な計画にならざるをえない。
その理由は、可処分所得の低下、雇用不安、休暇の減少 
強行日程(夜行も)辞さず。安価追求は一般的・必然的傾向。
    ネット予約環境の激変で、利便性や選択肢が大幅に増えている。
一方で、形の見えない商品が対面販売でなくなると、安心感が軽んじられがちに。
4.旅行業界の過当競争と戦略
   *旅行業者の全体数は、上記15年間で、12,622社から10,438社 2,184社減(△17.3%)
    ネット技術の進歩で宿泊・運輸などの「直販」(=直接販売)が増え、大手のネット業者、大手旅行社のネット増販の下で、中小旅行業界の取扱数・額は相当減少しており、過当競争の厳しさは、廃業増と構造的な低収益が常態化している。
*こうした過当競争、低収益構造下で、運輸・交通分野、旅行業の規制緩和が進むもとで、安全・安心をおざなりに、低価格と便利さのみに支えられた「送客力」を背景に仕入額を安全性や法規を無視して買い叩きさらに低価格競争に勝ち残ろうとする「悪質業者」が一部に存在し、その最大の弊害が今回の事故で明らかになった。
   *しかし、「顔の見える営業」をしている我々中小旅行業者には、何をさておいても安全と安心の旅を提供することが、建前でなく絶対的に求められている。我々には、価格支配力などはなく、個々の取引で交通機関や宿泊施設の選択には、安全・安心の視点で十分な注意を払い、価格競争の下での受注するために必要で適切な仕入・価格政策を展開している。
5.貸切バスなど旅の関連業界は… 「安全・安心」より「格安・利便性」の流れに‥
   *貸切バス業界で、1999年以降10年間で、事業者数が、2,336社から4,196社(79.6%
増)、台数が同じく、37,661台から44,617台(18.5%増)に増加、しかし、走行距離は161,400万キロから169,700万キロと5.1%増に留まっている。上記の旅行需要全体の減少に歯止めがかからない状態での、貸切バスの事業者、台数の増加は、間違いなく、バス自身の過当競争、運賃の低落傾向を生む条件となっている。 
*「規制緩和」策の下、「選択肢」の過剰提供で航空業界、宿泊業界も「価格競争」は「野放し状態」。旅の価格と質の二極分化という傾向もあるなかで、安全・安心を軽視した形だけの“偽装豪華”の競い合いや、「安いからこんなものや」と、人間をモノ扱いしかねない旅のあり方など、旅の文化性を押し下げる傾向さえみられる。
*安全・安心は旅の大前提です。特に運輸機関は「安ければいい」「速ければいい」ではその役目を果たせない。日本でもLCC(ローコストキャリア)の台頭が急ピッチで進んでいるが、御巣鷹山JAL墜落、福知山線のJR脱線など、数多い重大事故の教訓を風化させてはならない。
  (続く)