エッセイ 連載「原発と‥‥」

くらし学際研究所ブログより転載
第2回 原発アベノミクス
          くらし学際研究所 落合淳宏
 今年1月、安倍首相は就任後初の外遊先ベトナムで、福島事故後止まっていた原発輸出の話を復活させ、21年までに2基の原発を建設することを確認した。ベトナム側の条件は明らかにされていないが、その一つは「使用済み核燃料を含む放射性廃棄物処理」を含むと報道された。
 つづいてこの5月、安倍首相は、大経済使節団を引き連れて中東を訪問した。アベノミクスの「第3の矢」=成長戦略の2回目のセールス行脚である。目的は「原発輸出」。16基の建設計画を持つサウジアラビアとは原発輸出の前提になる原子力協定締結の交渉を始めた。12基を計画するアラブ首長国連邦原子力協定を調印。トルコには三菱重工業と仏アレバ社の共同で、原発4基輸出することが決まった。
 インドは20年までに原発18基の建設を計画している。安倍首相は、5月末に来日するインドのシン首相との首脳会談で原子力協定に調印し、核爆弾保有国である同国に原発を輸出する条件を整える。
 今、世界ではおよそ400基の原発があり、さらに400基の建設計画があるという。1基当たり4〜5千億円と言われる巨大な市場に企業が群がり、世界中でプルトニウムを生産し、放射性廃棄物を作り出す。
 日本政府は、他国と競争して世界に原発を売り歩く立場にあるのか。

 「100年は戻れない」と言われる高汚染地域に住んでいた2万5千人を含め、今も避難している15万人の多くが、故郷を奪われた。
 福島の原発事故では、重要な配管類や非常用機器が地震で破損したのかどうか未解明である。3号機では、消防車からの注水の半分以上がバイパスを通して外部に流れ、原子炉の冷却に役立っていなかった…それが大規模なメルトダウンにつながった可能性が強い…ことが、やっと最近になってわかった程度だ。日本は、原子炉3基がメルトダウンするという未曾有の事故を引き起こしただけで、未だ、そこから「安全な原発」のための「経験」を引き出せたわけではない。わかったのは、「事故は起きる」「起きればその被害は時空を越えた規模になる」「人間の生存を危機に陥れる」と言うことだ。人間の歴史から見れば、ほんの一時期のエネルギーを確保するだけのために、そんな代償を払うことはできない。
 
 安倍首相は、福島の経験を生かした世界一安全な日本の原子炉、と言って売り込んだが、たとえ、たとえ「世界一安全」でも事故は起きる。起きたらどうなるか、日本は今実体験しているのだ。

 その現実を世界に知らせるのが、日本の役目ではないのか。「あとは野となれ山となれ」の政治はもう終わりにしなければならない。