★前進座特別公演“赤ひげ”を見て★

  昨日のよる、神戸で前進座の公演“赤ひげ”を鑑賞しました。神戸健康共和会・東神戸医療互助組合創立60周年の記念行事としての特別公演です。
“赤ひげ”は江戸時代に貧民のための施療所として幕府により建てられた小石川養生所が舞台。長崎で最新の蘭学を学び“出世”を夢見て江戸に戻った青年医師、保本登を迎えたのは、本人の思惑とは全く違う貧民相手の施療所とそこの自称“ワンマン独裁者”の赤ひげだった。
しかし、ワンマン的独裁の赤ひげは、無駄と飽満政治で医療予算の削減を迫る幕府に対して敢然とたたかい、一つ一つの命の大切さを人々説き、貧民の医療に打ち込む。そして、『見事に生きた人間がまた一人死んだ。救えなかった自分が情けない。未熟な医術が口惜しい。保本、死者を惜しめ。自分の無力を怒れ、苦しめ、傷つくんだ!』と青年医師に叫ぶ。 
 こんな赤ひげの生き様を目の当たりにして、赤ひげや周囲の評価で持ち込まれた“出世”の道をあえて捨て去り養生所にとどまるまで大きく変わった青年医師、登のものがたり。時代は数百年前の江戸時代とはいえ、現代の社会、医療状況のもとででがんばる医療人のあり方にとどまらず、人間としてどう生きるかを十二分に示唆する舞台でした。
原作は山本周五郎の『赤ひげ診療譚』です。藤沢周平ファンからみると、何か相通ずる作風を感じます。周平作品では、やはり何とはなく獄医になって牢獄に通ううちに逞しく成長していく青年医師の物語『春秋の檻』(全4巻)を思い出しました。主人公の名前は同じく“登”、立花登です。