日本とコスタリカ両国民にノーベル平和賞を


朝日WEBRONZAから
http://webronza.asahi.com/politics/articles/2015021700001.html
伊藤千尋さんの取材報告
コスタリカ国会が決議
 ともに平和憲法を保持してきた日本と中米コスタリカの両国民に共同で2015年度のノーベル平和賞を――コスタリカ国会はこの特別決議を採択し、すでにアピール声明をノルウェーのノーベル委員会に提出した。
 日本では2014年、神奈川県の主婦の提案から憲法9条を持ち続ける日本国民にノーベル平和賞を受賞させようとする運動が広がり、一時は有力な候補とされた。今回のコスタリカ国会の決議は、日本の運動に大きなはずみをつけるものとなりそうだ。
 アピールはコスタリカのヘンリー・モラ国会議長の名で1月20日、ノーベル委員会に提出された。同委員会から受理したとの通知がすでにコスタリカ側に届いている。
 アピールは冒頭で「私はコスタリカ国会を代表し、コスタリカと日本の両国民に2015年度ノーベル平和賞を共同して授与するようにとの、本国会の満場一致による議決を伝えるものであります」と記した。

 その後に12項目にわたって、理由を挙げている。
第一に掲げたのは「平和は人類の共存と発展に特別の価値がある」だ。
第二には「軍事力は道具であり、その本質的な目的は戦争だ」として、段階的な軍縮が人類の発展や、飢餓や貧困との闘い、より正義で公正な社会のために役立つことを強調した。
第三と第四では国連憲章を引用し、資源を軍事ではなく開発や教育に充てる国こそが将来のモデルになることを示した。
第五には1949年に発効したコスタリカ憲法の第12条「常設の組織としての軍隊はこれを禁止する」という条文を示し、第六では国連平和大学の創設や永世中立宣言などに触れ、軍隊の廃止によってコスタリカが地域や世界の平和に貢献した歴史を述べた。
日本が登場するのは第七だ。ここに日本国憲法第9条の全文を掲げた。
第八では「この決定を保持することで日本国民もまた世界の社会にとって模範となったうえ、それゆえに経済的、社会的、政治的に大きく飛躍した」と日本国憲法の平和条項の日本と世界における意義を述べた。
第九では「コスタリカと日本はともに、この規範を65年以上にわたって保持し、再軍備を望む国内外の圧力をはねのけた。それは両国民の平和への使命感が重くかつ深く根ざしていることを示す」と、平和憲法を長年にわたって保ってきた努力を特筆した。
第十ノーベル平和賞が設けられた意義を確認し、第十一にコスタリカと日本という経済や歴史、文化などがまったく異なった構造の国がなしえたことは「世界のどの国民も軍事力なしに生存し発展できることを示している」とした。
 そのうえで最後の第十二で、両国民にノーベル平和賞を授与することによって、両国が憲法の条文をいっそう維持しようと努めるし、世界の様々な国が軍隊をなくすことにつながり、「国際法を通して紛争を解決することが明らかに優れているというメッセージを世界に送ることになる」と結んだ。
 決議のための法案を提出したのは与党である市民行動党の共同創設者であり重鎮のオットン・ソリス国会議員だ。
 ソリス氏は「両国民にノーベル平和賞を授与することで、第一にそれぞれの憲法の平和条項をけっして削除しないという意思を持たせる。第二に、(コスタリカのように)貧しい国であろうと(日本のように)豊かな国であろうと、(コスタリカのように)熱帯の国であろうと(日本のように)温帯の国であろうと、軍隊を廃止できるのだということを他の国々に勇気づける」と、理由を挙げた。
 コスタリカにも以前は、軍隊があった。
 しかし、1948年に政治的な意見の違いから内戦が起き、約2000人の市民が犠牲となった。その反省から、対立を暴力で解決するのではなくて対話で解決すべきだと考え、完全に自主的に平和憲法を定めたのだ。
 そのさいに作ったスローガンが「兵士の数だけ教師をつく
ろう」「兵舎を博物館に」「トラクターは戦車より役に立つ」だった。それを本当に実践したのだ。
 首都サンホセの中心部に、いかにも兵営らしい要塞のような建物が立つ。外壁には銃弾の跡が残る。かつての軍参謀本部、つまり旧日本軍でいえば大本営だった。
 ここが今、国立博物館だ。スローガンのとおり、兵舎は実際に博物館になった。
 そのレンガの壁の一部が壊れ、プレートがはめ込んである。そこに書かれたのは「武器は勝利をもたらすが、法律のみが自由をもたらす」という言葉だ。軍隊を廃止した当時のフィゲレス大統領の言葉だ。
 憲法の条文どおり、本当に軍隊をなくした。軍艦1隻、戦闘機1機、戦車1台もない。
 さらに平和を世界に広める国際的な努力も展開してきた。中米地域が紛争に巻き込まれた1983年には「永世、積極的、非武装中立」を宣言し、1987年には当時のアリアス大統領が中米諸国の内戦を終結に導いた功績でノーベル平和賞を受賞した。
 こうして政府も国民も平和憲法を活用してきた歴史の上に立って、今回の国会決議が生まれたのだ。
 では、軍隊をなくして、1949年以来、どのようにして平和を維持してきたのか、どのように平和を広めてきたのか。次回はそれを語ろう。