再び“修学旅行のキャンセル料”について

−5月20日朝日新聞の記事から−
行政の危機管理能力マスコミの公正・公平な報道姿勢の自覚大手旅行社の矜持それぞれの欠如!
 JTB西日本が負担するという100校で数億円!同社の規定で1校当たり数百万円!となるキャンセル料を請求しない、もらわない、自社で負担するということです。
 まずキャンセル料の中味です。旅行社自身の行程や企画づくり、見積もり作成、顧客との折衝などに費やした労力、時間、諸経費への補填という部分と、交通、宿泊、食事等の各施設からのキャンセル料請求に見合う額の移転部分があります。旅行費用全体の中では、サービス提供施設の費用が大部分で、それに加えて旅行社の取扱手数料があるように、キャンセル料でも施設からの請求の移転部分が殆どを占めます。
 次に、同社が“負担”するという意味合いです。お客様からもらわないという意味で、確かにそれは当事者同士の関係では同社の負担となるでしょうか…。しかし、同社が各施設からのキャンセル料請求にどう対応しているかは、この表現からだけでは正確には見えてきません。まさか、自社の補填分だけを放棄しますとの意味で“負担”と言ってるのではないでしょう。
 いま、学校、父母による対旅行社へのキャンセル料の減免交渉の多さが示しているのは、「自らの意思でなくやむを得ない」キャンセルだから…との思いがあるからでしょう。それは、旅行社が各施設へキャンセル料の減免申し入れをすることにつながります。その各施設への減免申し入れが実を結べば、「実質的には」キャンセル料を旅行社が「負担」するということにはならないでしょう。
 実際は、中小の旅行社の場合でも、学校側からの「要請」を受けて各施設と減免交渉し、施設の「理解」を得られた上で、その旨を学校に伝えるなど話し合いの仲立ちをしています。しかし、うまく免除された場合に、「当社はキャンセル料をいただきません、とか当社が負担します。」などではなく、「施設側にも理解、納得して頂きました。」との言い方をするでしょう。
 しかし、それでも問題は残ります。減免を「理解、納得」した施設側にもそれぞれの取引(納入)業者があります。施設側が受けざるを得なかった“負担”はその納入業者へと転嫁されないとは限りません。いわゆる事業者間の力関係のもとで「弱者」にしわ寄せがいくのは容易にみてとれる問題です。そうであるなら、業界最大手の旅行社が自社で負担しますなどと“宣言”するのは、情況を考えるとリーディング企業としての矜持に欠けると言われても仕方ないでしょう。さらに、記事によると、同社はそのことを「各教育委員会に伝えた」とあります。これが事実なら、筋違いも甚だしい相手に「伝えた」ということにもなります。
 そして、このことが教育委員会から学校、父母にも伝わり、さらに新聞報道されることによって、修学旅行のキャンセル料問題で学校と施設の間で苦慮している多くの中小旅行社は多大な迷惑を被ることになるのは必定です。マスコミにはその社会的影響力を自覚し、検証可能な事実に基づき、消費者及び零細規模から大きな事業者に至る様々な立場に配慮した公平、公正な報道が求められます。ましてや、“キャンセル任せて”“JTB西日本が数億円を負担”などとの不適切で見識のない見出し、表現などは言語同断です。どこまで、事実関係を検証したのでしょうか!最大手とはいえ、1民間旅行会社が「各教育委員会」に「自社負担」を「伝える」ことが、あり得るのか、事実ならそれはどんなことを意味するのか、分からないのでしょうか…!
 本来「行政指示」による「強制的」キャンセルであれば、それに伴う父母、旅行関係事業者の負担については「公費負担」の原則のもとに、行政が始めから適切な指針を示し必要な手当をしなければなりません。現に、22日になって文科省では、「国の交付金で補てん可能」との見解を出しています。すでにキャンセル料の減免を「呑んだ」各施設や納入業者があれば、その負担は補てんされるのでしょうか…?自ら「もらえません」と言ったJTB西日本と取引した学校からも、同社の宣言の意に反して「公費負担」でキャンセル料が支払われるのでしょうか…?!行政のあまりにも遅く的を得ない対応で現場は大混乱に陥ります。
 最後に、文科省の見解は遅きに失したとはいえ、一方では、休校、集会の再検討、不要不急の事業の縮小・休業、外出自粛勧奨などの「行政措置」により生じた修学旅行など公的な旅行以外の一般の旅行キャンセルに伴う事業者の損失補填やキャンセル料についても公費負担による十分できめ細かな手当をとの要望に正当性を与えるものだと思います。
(T.MATSUOKA)