「協同労働」の試み 仕事づくりで新しい芽

中国新聞」9月7日付けの社説で協同労働の働き方が紹介されました。
経営者がいて、雇われて働く人がいる。ごく当たり前の仕組みと思っていたら、雇われない働き方があることを知った。聞き慣れない言葉だが「協同労働」と呼ばれる。働く人が自ら出資して協同組合をつくり、全員が経営に参加するやり方だ。
 中国地方でも徐々に広がっている。介護などの福祉や公共施設の指定管理の受託を中心に、事業所は20カ所を超えた。日本労働者協同組合連合会に加わる組織の中四国本部も広島市にある。非営利を掲げ、公共性の高い分野での仕事づくりを目指す。そこで働く人はみんな対等。役員と従事者の関係が残るNPO法人とも違う点だ。
 広島市安芸区矢野町の民家を借りて、デイサービスや訪問介護をする福祉事業所「ぱーちぇ」。人に使われるのでなく、自分たちが思い描くような介護がしたい。そう考えた団塊世代前後の主婦ら5人が5万円ずつ出資して開設した。まもなく6年になる。
 働き手の組合員は今20人。所長や分野ごとにリーダーを置くが、重要なことは毎月の全体会議で話し合う。経営や運営のあり方、賃金も自分たちで決める。経営に加わればモチベーションが高まり、仕事の質も上がる。それが狙いでもあるが、途中加入の場合は、「雇われ人」的な感覚からの切り替えが要る。
 最初は面食らったという女性リーダーの場合、利用者にどう接するか、意見を言えるようになって場にとけ込めた。「指示されたことを黙々とこなす職場と違い、自分の生き方とどこか重ねることで前向きになれる」と言う。
 そうした気構えが認知症のお年寄りなど重症者も「断らない」という運営の姿勢に反映している。住民向けのヘルパー養成講座を開き、映画会も催した。2年余り前には、お好み焼き店を兼ねた「地域交流館」も呉市焼山に開設。一人暮らしのお年寄りや介護者のたまり場を目指す。
 協同労働は高齢者介護の分野にとどまらない。下関市では、障害児の親が中心になり、子どもたちのデイサービスを始めた。全国では、商店街再生や地産地消の取り組みにまで広がっている。
 厳しい雇用情勢の中、同じ志を抱く人による新たな働き場づくりへの期待もある。例えば、中国地方に多い中山間地域での集落支援にも活用できるのではないか。
 もう一つの働き方として、欧州連合(EU)では100万人が従事しているという。ただ、わが国には根拠となる法律がない。説明しても一般の人にはなかなか理解してもらえないのが難点だ。協同労働が法制化されれば、社会的な認知が一気に進むだろう。税制上のメリットも見込める。超党派議員連盟が準備していたが、衆院解散で中断した
 生活できるだけの給料を組合員に保証するのが「ぱーちぇ」の目標という。地域に根を張る活動の芽を伸ばし、下支えしていくためにも法制化を急ぎたい。