内部留保を労働者と社会に還元し、内需の拡大を! その4

 労働問題総合研究所は11月18日、「経済危機打開のための緊急提言」を発表しました。数回に分けて転載致します。

『経済危機打開のための緊急提言』
内部留保を労働者と社会に還元し、内需の拡大を!


3 労働者と社会に還元し、内需の拡大を
(1) 内部留保の還元に関する一考察
 私たちは、もし、1988年度以降、溜めすぎた内部留保を、労働者と社会に配分した場合の経済効果について、
  (1) 最低賃金の引き上げ
  (2) 非正規雇用者の正規化と働くルールの確立
  (3) 税、NGO等への寄付などによる社会還元
  (4) 生産、環境設備などへの投資
  (5) 全労働者の賃上げ等による労働条件の改善
 という5つのケースを想定し、産業連関分析の手法を用いて分析した。(表5)

(1)最低賃金の「時給1000円」への引き上げ
 日本の最低賃金は47都道府県ごとに決定され、全国平均額は713円である。世界の多くの国では、全国一律の制度として設定されており、フランスやイギリスなどは1100〜1300円という水準である。最低賃金を1000円に引き上げることは、ワーキング・プアなど、働く貧困を解消するための急務であり、直ちに実施すべきである。
そのために必要な資金は5.9兆円で、1998〜2008年度の間に増加した内部留保218.7兆円の2.7%にすぎない。

(2)非正規雇用者の正規化と働くルールの確立
《非正規の正規化》
 昨年来の「派遣切り」、「非正規切り」によって職場を追われ、職を失った労働者は、厚生労働省の控えめな推計によっても24.4万人にものぼる。「派遣切り」、「非正規切り」の実態は、派遣労働者や有期契約労働者が、無権利で低賃金の「使い捨て労働者」として企業に活用されている実態を浮き彫りにするものとなった。「非正規切り」の先頭に立ってきた自動車メーカーでは、生産調整が終わり、増産体制に入ると、再び、短期の「使い捨て」を前提にした非正規雇用の再開の動きが広がっている。こうした企業の都合次第で「使い捨て」にできる雇用をやめさせ、「安定した雇用」を実現することは広範な労働者の切実な要求となっている。「雇用は正社員が当たり前」という社会を実現する必要がある。
そのために必要な資金は7.7兆円であり、内部留保増加分の3.5%に過ぎない。

《働くルールの確立》
i) サービス残業の根絶・・・労働基準法違反の犯罪行為であるサービス・不払い残業が大手を振ってまかり通っている。不況のもとで、操業短縮や一時帰休などの生産調整が進んだにもかかわらず、サービス残業は依然として根絶されていない。2008年度の労働基準監督署の監督指導による割増賃金の是正状況(100万円以上)をみると、是正指導を受けた企業は1553社に及び、是正支払金額は196億円に及んでいる。サービス残業の根絶は急務になっている。
そのために必要な資金は5.6兆円であり、内部留保増加分の2.6%にすぎない。
ii)完全週休2日制の実施と年次有給休暇の完全取得・・・年次有給休暇の完全取得について、異論をはさむ人はいないだろう。あまりにも当たり前の要求である。日本の年次有給休暇の取得状況をみると、取得日数8.8日、取得率48.1%という低い水準であるが、フランスの取得日数は36日、ドイツは21日である。日本の年休取得はフランスの24%、ドイツの42%という低水準である。日本の低い年休取得の水準をEU諸国に近づけるためには、年休の完全取得を義務化することが必要である。
完全週休2日制の実施と年次有給休暇の完全取得に必要な原資は7.3兆円であり、内部留保増加分の3.3%にすぎない。

(3)税・NGO等への寄付などによる社会還元
 企業に対する税金(ここでは、「法人企業税(国税)」は、1989年頃約40%であったが、消費税増税をよそに、1999年以降30.0%に低下した。それだけ企業の社会的貢献が小さくなったのであり、これを元に戻す必要がある。また、他の先進国の企業に比べて貧しすぎるNGOやNPOへの寄付を大幅に増やし、企業の社会的責任を果たさせる必要がある。
そのために、ここでは、内部留保増加分の10%、21.9兆円を用意する。

(4)生産および環境設備投資
 内需が拡大し、需給が回復すれば、当然、新たな設備投資が必要になる。また、地球温暖化等に対応するためには、もっと環境投資を拡大しなければならない。
そのための資金として、内部留保増加分の30%、65.6兆円を用意する。

(5)全労働者の賃上げ等
 以上、4つのケースに必要な資金は、114兆円であり、内部留保増分の52.1%、約2分の1にすぎない。
残りの104.7兆円を全労働者の賃上げなどに振り向けるなら、次のことが可能になる。
 まず、賃上げである。厚生労働省「毎月勤労統計調査」によれば、労働者の賃金総額は、1998年の36万6481円から、2008年の33万1300円へと、10年間に、3万5181円も減少している。これをとりあえず1998年水準にもどすことは、内部留保急増が示す日本経済の不均衡を正すことであり、国内需要、とりわけ家計消費需要の回復のために決定的に重要である。
そのために必要な資金は、33兆円であり、内部留保増分の15.1%と見込まれる。
 さらに、残りの71.7兆円分を労働者に配分すれば、労働時間短縮、長期休暇制度、社会保障費の使用者負担引き上げなどにより、ワーク・ライフ・バランスを欧米先進国水準に近づけることも可能になる。