大アッパレは失礼か…

KokusaiTourist2010-07-04

張本勲 もう一つの人生』を読んで

毎週日曜朝4チャンネル、朝寝を我慢して必ず見る。関口宏さん司会の“サンデーモーニング”。もう何年見続けてるだろうか。番組の魅力は、司会の温厚な人柄もあるが、リベラルで謙虚な人が多い出演陣や本当に全員がまじめなスタッフではないだろうか…。参院選の争点になってる消費税についても、先々週は、出演者全員のスタンスの違いはあれ、番組全体の基調が、消費税増税に問題ありで貫かれていたのは、昨今の「報道番組」では珍しい。


番組の魅力はそれだけではない。スポーツ部門のコメンテーターでレギュラー出演している張本、いわゆる“ハリさん”である。業界、球界の「常識」を、歯に衣着せぬもの言いで真っ向から“切る”だけでなく、弱者に優しいというのか人情味豊かなというのか、精神主義でなく合理的で生活と結びついたスポーツ観から出てくるブレない発言、コメントは、時に、司会者や他のゲストから、「また言ってるわ…」「まあそこまで言わんでも…」などの視線や「反論」を浴びながらもひるまない。ゲスト達も、それが正論なんだろうな…とかの気持ちにさせているようだ。今の時代に必要で貴重なコメンテーターであることは間違いない。
 最近、とみに反核、平和についての発言を各種の紙面で拝見する機会が増えていたが、今回の著書は、それらをまとめる形で半生記を学ばしていただくものとなった。
 タイガースファンであっても地元“浪商”の張本が東映フライヤーズに入り1年目から大活躍して超一流のスターになっていく経過はワクワク感で注目していた。巨人への移籍には、失望と同リーグでの警戒感をもって受け止めたのを覚えている。スタンスが広く、安定した下半身で左右に長短打を打ち分けていた“広角打法”はホントに凄かった。
 当時、「在日」であることはもちろん知っていたが、被爆者であることを知ったのは数年前だった。原爆で自慢の姉を亡くした悲しみ、怒りに自暴自棄になりやんちゃな少年時代を野球に打ち込み高校にまで行けたのは母と兄のお陰と言う。広島の高校から浪商に転校するのにいかに兄たちが苦労したか、浪商では言われ無き差別をうけ、また巨人から最初に誘いを受けていたというのは、本書で知ったことである。
 プロの世界での交遊にも触れている。同期の王選手、400勝の金田投手、自らが立ち上げたに等しい韓国プロ野球に送り込んだ在日のプロ選手たちのこと、そしてプロレスの力道山。彼らが帰化日本国籍を取ったことに、力道山には、何で…?と詰め寄りぶん殴られたこと、金田投手が帰化した時には、母親に「お前は誇りを持って生きればいい」と嗜められたとある。窺い知ることのできない「在日」の人達の深い悩み!そんな母親が、前人未踏の3000本安打達成の日に、奥さんによって彼に内緒で球場に招待されていたこと。その数カ月後母親が亡くなった時、よくぞあの時球場に呼んでくれたと手を合わせて感謝したくだりなどは、胸をつくものがある。

 また、スポーツやその記録への彼の真摯なこだわりは、「あっぱれ」である。イチローが日米通算で彼の安打数を超えた時、自らが当事者であるにも拘わらず、あるいは当事者であるからこそか、日本記録保持者は「私」だと、繰り返しマスコミに言い聞かせるかの如くに強調していたし、この本でも記録を大事にしろと書いている。ゴルフやアイススケートなどでも、人気者を追いかけるばかりで、トップ選手や優勝者の報道をほとんどしないマスコミの在り方に苦言をていしているのは全く同感である。
 被爆者であること、その体験を語り始めたきっかけは、“戦争なんて関係ない”という青年の言葉への驚きであり、“8月6日を忘れないで!”とのある少女からの手紙であったという。彼は、広島の原爆資料館の中にどうしても入れなかった。少女の手紙がきっかけで3年前に初めて入館したときも、姉のお墓に報告をしてから出かけた。張本選手というのはそういう人間なんだと思わせる話しである。ハリさんは、自らのそうした変化を遅すぎたと悔やんでいるが、決してそんなことはない。僭越ながら敢えて”大あっぱれ”と言いたい。(T.MATSUOKA)