高齢社会への備え、

KokusaiTourist2010-07-13

海外旅行のニーズを探る−エイビーロード
(WEB版業界紙トラベルビジョンより)
現在の旅行市場を牽引するシニア層。これから5年、10年経ったとき、加齢による身体的な負担が増すことで、これまでと同様の旅行がしにくくなる。それを想定し、高齢者向けの旅行商品が販売されつつあるが、市場に流通する商品の造成は一部の旅行会社に限られており、商品の充実が望まれる。また、販売する側も彼らのニーズを把握することが重要だ。エイビーロード・リサーチ・センターの調査から、高齢者市場の可能性とニーズを考えたい

半数が海外旅行への意欲あり

 エイビーロード・リサーチ・センターが同調査を実施した目的は、(1)加齢による身体的不安で旅行をあきらめている人や家族の存在規模と市場機会の解明、(2)対象者のニーズを把握し、旅行商品の造成へのヒントの獲得、の2点だ。
 今回の調査では、回答を得た高齢者のうち、海外旅行に「行きたい」「まあ行きたい」と回答した合計は、遠距離方面の場合は37.4%、近距離方面の場合は50.2%となった。同居家族の高齢者との旅行意欲は、遠方方面が36.7%、近距離方面が50.4%。高齢者も同居家族も半数は海外旅行への行く願望があることが分かる。

 ただし、上記は単に「行きたい気持ちがあるか」を問うたもの。旅行意欲のある人のうち「市販されている一般的なツアーに参加するのに問題のない体力・気力があると思うか」との問いでは、「体力・気力がない」と思っている高齢者は22.9%。同居家族の場合、25.7%となっている。さらに、「体力・気力がないと思うが海外旅行への意向がある」という人のうち、「過去1年で1回も海外旅行に行かなかった」のは68.6%にのぼる。
ところが、「高齢者に配慮されたツアーが予算内に見つかった場合の海外旅行意向」を聞くと、過去1年間で海外旅行を行かなかった人のうち、「年間で1回増える」としたのは26.6%。「金銭や体力上などの理由で回数を増やすのは難しい」とした人が28.4%いるものの、「年間で1回から3回増える」をあわせると、34.0%が海外旅行へ行く、または海外旅行の回数を増やすとしており、新たな需要創造に期待が持てる。
参加平均人数は4人、同行人数は多い傾向
 同調査では、「海外旅行の回数が1回以上増える」と回答した人の割合を、それぞれの年代別人口別に掛けあわせて増加見込み人数を算出した。これによると、増加が見込まれる高齢者数は、82万7444人、渡航回数では107万7219回。また、同行が見込まれる同居家族では30万2802人、36万4836回となった。エイビー・ロード・リサーチセンターでは、今回の調査は高齢者の同居家族のみを対象にしているため、別居の家族を含めると市場はさらに大きくなると予想する。
 ちなみに、高齢者に問うた「想定される同行者人数」は、本人を含めて平均4.0人。4人以上との回答が50.5%を占めた。一般市場の平均は3.6人で、2人が52.0%と半数以上(「エイビーロード海外旅行調査2009」との比較)であることから、一般の旅行よりも1度の旅行で多くの参加者が見込めそうだ。
 高齢者が想定する同行者は「娘」(51.0%)が最も多く、「配偶者」(33.0%)、「息子」(33.0%)、「孫」(28.0%)、「息子夫婦」(19.0%)と続く。また、同居家族が想定する同行者は「母」(37.0%)、「娘」(35.0%)、「息子」(29.0%)、「配偶者」(28.0%)、「父」(28.0%)となっており、女性中心の旅行の希望が高い。また、高齢者には「孫」が4番目に多いことから、3世代旅行のニーズも取り込めるだろう。

歩行にまつわるニーズが高い

 高齢者で「一般のツアーに参加するのに体力気力がない」と思う人に、「健康上の不安な点」を聞くと、最も多かったのが「疲れやすい」(54.3%)であった。続いて見受けられたのが、歩行にまつわるもの。「階段の上り下りが苦手」(52.9%)、「自力で歩行できるが、ゆっくりでないと歩けない」(50.4%)、「長時間(30分以上)の歩行は苦手」(43.3%)、「杖を使って歩行している」(21.5%)と、その他の項目に比べて高い数値を示している。
 また、「医療関連のケアは必要ないが、体に何らかの不調や痛みなどがある(腰痛など)」(24.9%)、「難聴・聞こえにくい」(18.8%)、「頻尿など排泄に問題がある」(17.8%)など、必ずしも日常的に医療関連のケアや介助が必要でない項目でも、集団行動をする旅行への参加の際に不安要素となることがうかがえる。
 ツアーを選ぶ際にほしい情報でも、「行程の歩行距離の目安(500メートル刻みなど)」(72.0%)が最も多く、歩行に対する不安が見てとれる。また、「行程のゆったり度(3段階表示など)」(60.0%)、「トイレ休憩のタイミング」(52.0%)、「休憩時のトイレ情報(多目的トイレの有無など)」(50.7%)など、体力や体調の不安に対応できる情報が求められている。それらは「参加条件(車椅子などで参加可能か)」(49.3%)、「介助サービスなどのオプショナル情報」(42.7%)などと同じくらい重要視されているようだ。

70代以上のケアが重要
 では、どのようなツアーを「高齢者に配慮されているツアー」と考えているだろうか。高齢者によると「行程がゆったりとしている」(75.0%)が最も多く、これは「健康上の不安な点」であげられた「疲れやすい」にリンクしている。次いで「機内座席が同行者との並び席が用意されている」(65.0%)、「添乗員が同行する」(60.9%)、「日本語スタッフ駐在のホテル利用」(55.0%)となり、一般のツアーでも見られるニーズが続く。
 「健康上の不安な点」であげられた歩行に関する項目としては、「行程で長い階段の上がり下がりが排除されている」(52.0%)、「30分以上の連続した徒歩観光が排除されている」(47.0%)、「リフトやエレベーター移動が極力取り入れられている」(42.0%)、「可能な歩行距離別や体力レベル別に、現地での観光内容の選択肢がいくつか用意されている」(39.0%)など。また、「トイレ休憩が頻繁に設定されている」(49.0%)も、健康上不安な点であげられた内容に関連する項目だ。
ただし、注意したいのは年代によってニーズに違いがあること。例えば、「行程がゆったりとしている」では、70歳から75歳が100%、75歳以上も75.0%以上であったほか、歩行など健康上不安な点であげられた内容に関連する項目でも、70歳以上の要望が多い傾向にある。それに対して、60歳から64歳は「現地の食事に関して、レストランや料理の選択肢が多い」「ホテルの部屋の禁煙、喫煙が選択できる」など、旅行を楽しむためのニーズが高い。65歳から69歳は、各項目に対し、そこまでニーズは高くない。
 前出の「高齢者に配慮されたツアーが予算内に見つかった場合の海外旅行意向」を年代別に見てみると、増えると回答した割合は65歳から69歳(3.2%)が最も多かったものの、70歳から74歳(3.0%)、75歳以上(3.1%)は、60歳から64歳(2.1%)よりも大きい。各年代の人口は年齢を増すごとに減少するものの、増加見込み人数としては70歳から74歳(20万6830人)が、60歳から65歳(18万8770人)より多く、75歳以上(17万8102人)もほぼ匹敵する数値だ。エイビーロード・リサーチ・センターでは、高齢者に配慮したツアーを造成する際は70歳以上を想定するとよいとしている。


調査名:体力に自信のない高齢者とその家族の海外旅行ニーズについての研究
調査実施:エイビーロード・リサーチ・センター
調査期間:2010年2月12日〜2月15日
対象:市場規模調査対象数4万2349サンプル
  (うち高齢者3696サンプル、同居家族7625サンプル)
  ※高齢者は60歳以上
  ※同居家族は60歳以上の高齢者と同居し、高齢者との旅行意欲がある人