内部留保を労働者と社会に還元し、内需の拡大を! その1

再録
 労働問題総合研究所は11月18日、「経済危機打開のための緊急提言」を発表しました。数回に分けて転載致します。
概略は下記の通り
 日本経済はいま深刻な危機に直面している。
この危機を打開するためには、日本経済の仕組みを外需・輸出依存型から内需・国民生活充実型に転換させることが急務である。提言では、企業が膨大にため込んでいる内部留保を労働者と社会に還元することが、現下の日本経済の危機を打開するうえで、待ったなしの課題となっていることを明らかにした。

 われわれは、今回の提言にあたって、この10年間にため込んだ内部留保218.7兆円を、労働者と社会に配分した場合の経済効果について、
(1)最低賃金の引き上げ、
(2)非正規雇用者の正規化と働くルールの確立、
(3)税、NGO等への寄付などによる社会還元、
(4)生産、環境設備などへの投資、
(5)全労働者の賃上げ等による労働条件の改善

という5つのケースを想定し、産業連関分析の手法を用いて分析した。
【試算結果】
 国内需要が263.0兆円拡大し、それによって
国内生産が435.5兆円、
付加価値(≒GDP)が238.8兆円誘発
され、それに伴って、
国税地方税合わせて42.4兆円の増収となる。
 その具体的内容は以下の通り。

(1)最低賃金の引き上げ
最低賃金を「時給1000円」に引き上げることによって、国内需要が5.8兆円拡大し、それによって、国内生産が13.4兆円、付加価値(≒GDP)が7.3兆円誘発される。それに伴い、国税および地方税が、合わせて1.3兆円の増収となる。
(2)非正規雇用者の正規化と働くルールの確立
働くルールの確立(サービス残業根絶、有給休暇の完全取得および週休2日制の完全実施)によって、266.5万人の新規雇用が必要になる。その雇用増によって、家計消費需要が13.4兆円拡大し、国内生産が21.8兆円、付加価値(≒GDP)が11.1兆円誘発され、税金が、国・地方合わせて2.0兆円の増収となる。そのために必要な資金は、12.9兆円である。
  非正規の正規化では、派遣53.4万人、有期契約310万人を正規化するために、7.7兆円の資金が必要である。その賃上げ効果によって、国内需要が8.7兆円拡大し、国内生産が14.3兆円、付加価値(≒GDP)が7.0兆円誘発され、税金が、国・地方合わせて1.24兆円の増収となる。
(3)税、NGO等への寄付などによる社会還元
国内需要が32.2兆円拡大し、国内生産が55.5兆円、付加価値(≒GDP)が29.4兆円誘発され、国税地方税合わせて5.2兆円の増収となることが分かった。
(4)生産、環境設備などへの投資
内部留保増分の30%である65.6兆円の投資によって、2次的な消費需要を加えて93.5兆円の国内需要が発生し、国内生産が149.4兆円、付加価値(≒GDP)が79.2兆円誘発され、国税地方税合わせて14.1兆円の増収となる。
(5)全労働者の賃上げ等による労働条件の改善 
この10年間に低下した「現金給与総額」は、月、1人あたり3万5151円になる。これを元の水準に戻すことを前提に試算すると、33.0兆円/年が必要になる。その実施によって国内需要が35.0兆円拡大し、国内生産は53.7兆円、付加価値(≒GDP)は30.7兆円誘発され、国・地方税合わせて5.5兆円の増収となる。

【労働総研の主張】
 今回の提言にあたって、われわれは、財務省「法人企業統計」にもとづいて、内部留保の歴史的分析をおこなった。そのなかで、昨年来の深刻な不況にもかかわらず、日本企業が内部留保を増やしていること、また、
内部留保の急膨張が始まったのは1998年度以降のことであることが明らかになった。

それまで209.9兆円だった内部留保は、その後の10年間で倍以上の428.7兆円にも急膨張している。
1998年度以降積み上がった218.7兆円は、賃金の切り下げや非正規労働者の解雇など労働者の犠牲と、下請単価切り下げなどによる中小企業への犠牲転嫁の上に、国内需要に転化することなく積みあがったものであり、到底正当化できるものではない。こうした内部留保の過剰なため込みが、国際的にみても著しく落ち込みが激しい日本経済の危機の原因となっている。内部留保を労働者と社会に還元し、内需を拡大することは急務となっている。労働組合がこのたたかいの先頭に立つことが期待される。