中小旅行業平和憲章草案 その2

 2011年2月24日兵庫県旅行業協同組合第35回総会採択
国際ツーリストビューローも加盟する兵旅協が、中小旅行業平和憲章草案を発表し、旅行業界、観光関連業界、市民への普及活動を進めることを総会で確認しました。何回かに分けてその内容を紹介します。

3.最近の二つの特徴−
安全・安心の後退と旅の“多様化・個性化”
 旅の現状を問う「アンケート」では、“団体でなく少人数での旅が増えている” (29.4%が1位回答)が最大の特徴として指摘されています。続いて、“価格競争で安全と質の低下が心配”(同26.4%)、“旅の価格・質の二極分化の傾向”(同14.2%)、“安近短の傾向の強まり”(同6.6%)が挙げられています。さらに“テーマ・目的の明確な旅の増加”(同6.6%)、“交通機関の過当競争で安全性が低下”(同5.1%)、“商品化されすぎ…”(同3.0%)が続きます。
①“価格競争で安全と質の低下が心配”の声が業界から
 “いつでも、どこへでも、誰でもが、安全に”という、人間本来の移動の自由に由来する『旅の権利』からみれば、安全や質の後退、「二極分化」などは憂うべき状態です。
 安全確保が大前提である交通機関に、利潤第一の競争による安全、安心の後退はあってはならないことです。また、「低価格競争」は、食、泊、サービスなど旅の質の低下にもつながりかねません。解放感、自由、癒しを求めて旅に出る人々を迎える側の人的サービスにも影響を与えます。双方の満ち足りた笑顔こそ旅に欠かせないものです。
 “旅の価格と質の二極分化”とともに“安近短”が多くなっているのは、“二極分化”といいながら、実際は多数の人々が様々な制約のもとで“安近短”の旅行を選択せざるをえなくなっているということでしょう。

②“自分流の旅”“新しい旅のかたちも始まっている”
 一方、“旅の少人数化”のもとで、“テーマ・目的の明確な旅”や“町おこしと結びついた旅”“滞在型の旅”もふえており、旅の個性化、多様化の流れが始まり強くなっています。「旅の日常化」がこうした流れを生み加速させてきました。
 かつて戦後の混乱期から抜け出た60年代の高度成長期、旅や移動の名目的な自由はあっても、旅行は職場や地域など団体で連れていってもらう「受け身の旅」が普通でした。その時代からみれば、現在は、人間の本源的な要求にもとづきながら、非日常的な生活文化としての旅が育ちつつあるといえます。

③変化の背景は「競争至上主義」、「規制緩和」と旅の「日常化」か…
 今に続く「高速道路網建設行政」の始まりとなった「日本列島改造論」(1972年)や、シーガイア、レオマワールドトマムリゾート、ハウステンボスなど「リゾート法」(1987年)による政策的な観光地づくりが、70年代以降続きました。平行してIT化の進展を背景に、観光資本が巨大化し、急速に進み、商品化競争は「旅の大衆化」をもたらしました。
 それは、「個人主義」の台頭、「個の尊重」などの社会風潮、価値観の変化とも相まって、「旅の主人公」の自覚を高めました。旅の商品の画一化、マスプロ化でなく、旅の安全、快適さと「個性」を求めることでした。それに伴い、前述の観光地がことごとく行き詰まり、政策的な観光地づくりの破綻が明らかになりました。
 こうした消費者の変化を受けて、観光資本も戦略の見直しを迫られ旅行者のニーズを先取りした商品づくり、多様なニーズを踏まえた多品種少量生産、地域観光資源の掘り起こしに力を入れはじめたのです。
 1995年6月、はじめて“旅が権利である”ことを盛り込む一方、航空運賃などの季節波動を奨励した観光政策審議会の答申(「今後の観光政策の基本的な方向について」)がありました。これを契機に、交通観光分野での「規制緩和」が進められ、観光分野で価格競争と経済的合理性がより強まることであり、観光政策が経済政策の一部に組み込まれることでもありました。

3.旅行業界はいま…

1.旅行業界の構造的な矛盾−
超ビッグな企業と超多数の零細業者の存在
 旅行業者数は、2007年現在で、1種791(8.3%)、2種2,787(29.2%)、3種5,957(62.5%)で、総計9,535社に、これに旅行業代理業901社を加えると10,436社にのぼります。これは、1996年の10,747社に比べ97.1%で殆ど横ばいです。(数字は観光庁のホームページより)
 この間、旅行需要は旅行者数、消費金額ともに大きく減少しています。ホテルや航空会社などのインターネットによる拡販のもとで、消費者の「旅行業者離れ」もすすみ、旅行業者の取扱人数、取扱高の減少はさらに大きいものと推定されます。
 こうした過当競争、収益率の低下、人員削減、コストカット、品質問題、さらにそれらと関連した業者離れも加速するという、構造的な不況要因を旅行業界は抱えています。
 従業者数(2007年)は、1種が70,000人(59.8%)、2種25,000人(21.4%)、3種22,000人(18.8%)と推定されます。また取扱高では、1種が6兆7,270億円(87%)、2種、3種合わせて9,730億円(13%)となっています。

2.大手業者の戦略−熾烈な生き残り競争を駆ける
  大手旅行社は、「シェア拡大・低価格競争」「販売委託業者の選別強化」「専門特化、分社化・営業所縮小」「コストカット・社員の非正規化」「行政への接近」「インバウンド(訪日観光客)重視」をほぼ共通の戦略に据えています。個々の旅行社により、重点の違いはあっても、いずれも「生き残り」戦略として、これらを徹底してすすめています。
 しかし、大手旅行社には、個々の旅行者への満足提供だけでなく、安全な旅の環境、旅の文化、業界の健全な発展に責任を負うリーダーシップが求められています。いまのようなシェア拡大、競争第一では、利用者や関連業界との矛盾も深まり、構造的不況はいっそう深刻にならざるを得ないでしょう。