佐藤・全旅連会長(旅館団体)に聞く震災後の取り組み

ともに頑張り乗り越える
 ―震災から2カ月以上が経ちました。これまで全旅連が取り組んできたことを教えてください。
"希望"につながる対策を
佐藤   直後は組合員の安否と被災状況の確認に取り組みました。しかし、津波の被災地については、状況の把握がとても困難でしたし、2カ月以上経った今でも安否が確認できていない組合員や従業員さんがいます。
  並行して行ったのが旅館への被災者の受け入れです。災害救助法の適用を働きかけ、旅館を避難先として認めてもらいました。新潟県中越地震の際に、新潟県の旅館が災害救助法に基づく避難先になった前例が参考になりました。1人当たりの滞在費は1日3食付きで5千円です。
  中越地震の際は、費用は新潟県と国で負担しましたが、今回は全額国が負担します。津波からは助かったご高齢の人たちが、寒さの厳しい避難先の体育館で亡くなるといったニュースに胸がつぶれる思いでしたので、なんとか早く旅館での受け入れを実現したかった。被災の範囲が広かったことで、被災者が他の県の旅館を避難先として利用することも、時間はかかりましたが今回初めて認められました。全国の旅館の皆さんの協力で、受け入れ態勢もでき、旅館が被災者のお役に少しでもなれたのかなと思っています。
―旅館業や観光業の復興についてはどのように考えていますか。
佐藤   いくつかに分けて対応策を考える必要があります。津波で街全体が流出してしまった地域では、地域再生のプロジェクトのなかで、国や市町村の支援のもと旅館をまとめて再興するような方法がとれないか。また原発問題が進行形の福島県と、隣接する県についても分けて考える必要があります。
  大震災による旅行の自粛は全国規模で起こりましたが、福島の隣接県ではやはり放射能の問題で旅行が敬遠されている現状があります。
また、外国人旅行者の激減は、東京都の組合員さんを直撃しています。それぞれ直面する問題が違いますから、対応策も異なります。
  ただ、全旅連としては、先が見えないなかでも、組合員さんがやっていけるという希望につながるような情報提供なり、政府への働きかけを続けるつもりです。
―希望につながる環境整備として、全旅連は融資や返済、税制や雇用についての特例措置、原発事故によるキャンセルへの補償などについて、関係省庁や政府与党に陳情を繰り返しています。もっとも強く求めているのはどのようなことでしょうか。
助成金で雇用維持を
佐藤   売上の激減にどのように対応するかで多くの旅館さんが悩んでいます。
まず新しい貸付がスムーズに行われることと、既往の借り入れの返済猶予や金利の減免措置、それらが債権者区分に影響を与えないようお願いしています。金融庁の指導もあり、貸付や返済のリスケジュールなどはおおむねスムーズに行われていると聞いています。
  また、売上の激減で困るのが固定資産税の負担と人件費です。固定資産税については被災地支援の観点で免除をお願いしています。人件費についてはぜひ、雇用調整助成金を活用してほしい。旅館業界ではあまり使われてきませんでしたが、リーマンショック後のピークでは全国で253万人が雇用調整助成金を受けています。申請して認められれば被災県では3月11日に遡って受給できます。うちでも3月に申請し4月から受給しています。ただ、申請書づくりはかなり煩雑なので、申請書類を簡素化することも求めています。
―厳しくともなんとか雇用を維持してほしいと旅館業界に向けて訴えていますね。
佐藤   旅館業は若い人から高齢者まで、また、いろんな能力を持った幅の広い人材を採用できる業種です。そうした業種だからこそ、観光産業は大切な産業だと評価されているし、それが観光産業の長所でもあります。その長所を簡単だからと切り捨ててしまうことは、我々の最大の長所を失うことです。
  少子高齢化社会のなか、地域の基盤産業は観光以外にありません。地域の活性化のために観光は必要だと社会に認めてもらうためにも、雇用は守らなければならないと思っています。
原発事故によるキャンセルなど損害賠償はどのように求めますか。
佐藤   国に対して補償を求めていくつもりです。ただ、原発問題は進行形ですので、今の時期の請求が適切なのか、半年先、一年先を待っての請求が適当なのか。外国人旅行者の激減や国内旅行全体への影響をどう積算するのかも課題です。補償の額は別にして交渉は始めたいと思っています。
やるべきことすべてやる
―現状を乗り越えていくために、どのような心構えが必要でしょう。
佐藤   地震津波については復興に向かってゆっくりでも確実に進んでいくと思います。全旅連でも、やるべきことはすべてやります。原発事故は進行形ですが、みなさんが諦めることなく、なんとしても乗り越える気持ちが大切だと思います。全旅連も協力しますのでともに頑張りましょう。
(トラベルニュースat 11年5月25日号)