東北ききある記−福島・土湯温泉(2)

避難生活の中に楽しみを
業界紙トラベルニュースより
奥つちゆ川上温泉・阿部さんのもてなし
 朝食はいっせいに始まった。自分たちでお給仕をし、食べ終わると食器を1つのテーブルにまとめていた。
朝食会場では、さすがに旅館と思わせる光景を見た。宿の主人の阿部義輔さんが、食事の前、その朝に採ってきた山菜や山野草の解説を食堂で始めたのだ。山野草は名前の書いた台紙とともに、各テーブルに回覧されている。それらが朝食に並ぶこともある。
 この日紹介されていたのはスカンポアカツメクサ、イタドリなど5種類。あとで阿部さんは「なかに1つだけ毒草を入れておくと、みなさん飽きずに聞いてくれる」と接客業のプロのテクニックも披露してくれた。この朝の毒草はクサノオウだった。避難の人たちを受け入れて約1カ月が過ぎていたが、山菜説明会はほぼ毎朝行い、同じものは取り上げていないという。山に親しみ、冬虫夏草の専門家でもある宿の主人ならではのもてなしと感心したし、避難生活の中にも楽しみを提供したいというエンターテイメント産業の旅館ならではと嬉しかった。
 浪江町から避難してきた75歳の男性は親族18人とまず浪江町内でより原発から離れた知人の家で6日間避難生活を送ったそうだ。その後、東和町福島市の研修センター、千葉県我孫子市、同御宿町我孫子市東和町那須高原を経て、ようやく川上温泉に落ち着いた。その間、多人数での避難は難しく親族はちりぢりとなり、那須高原の宿泊施設には高齢で移動が難しい母親と介護の奥さんを残してきた。
「町会の役員をしている関係もあって、こちらにお世話になりながら、那須高原と往復しています。ここは温泉と食事がいい。山野草の解説も毎朝の楽しみです」