ベトナム支援―原発輸出は考え直せ

朝日新聞11月2日社説 
 野田首相福島第一原発事故で停滞していた原発輸出の「解禁」に大きくかじを切った。
 来日したベトナムのズン首相との間で、日本政府が原発2基の建設に協力することを約束した共同声明に署名したのだ。
 実現すれば、日本初の原発輸出となる。
 私たちは、史上最大級の事故を起こし、原発への依存度を減らすべき日本政府が、原発売り込みの先頭に立つのは、筋が通らないと主張してきた。
 ベトナムが電力不足解消への協力を求めたとしても、その答えが原発である必要はない。
 近年、日本とベトナムは急速に緊密さを増している。
 今回のズン首相の訪日では、レアアースの共同開発のほか、ベトナムからの看護師・介護福祉士候補者の受け入れ、高速道路建設などへの計930億円の円借款供与でも合意した。
 経済成長が著しく、今世紀半ばには人口が1億人に達するベトナムは、投資先としても市場としても魅力がある。
 日本政府としては、軍事力の近代化や海洋進出を強める中国をにらんで、関係を強化しておきたい思惑もあろう。
 ベトナム南シナ海で中国との紛争を抱える。日本は資金、技術の提供元というだけではなく、安全保障上も協力を深めたい存在だ。
 だからこそ両国は、政府レベルでお互いを「戦略的パートナー」と位置づけ、日本は最大規模の途上国援助(ODA)の供与を続けている。
 ベトナムとの友好を進め、発展を手助けすることに異議はない。しかしその方法は、いまの日本にふさわしいものであるべきだ。インフラ整備や自然エネルギーの開発、人の交流など、多くの分野で協力できる
 日本政府は最近、インドとの間でも原発輸出の前提となる原子力協定交渉を進展させることで合意した。トルコとの協定交渉も再開をめざしている。
 原発事故がいまだに収束せず、検証作業も終わっていない。政府の姿勢はあまりに前のめり過ぎるのではないか。
 原発輸出のために技術水準を維持する必要があると、「脱原発依存」の歩みを遅らせる口実にも使われかねない。輸出先で原発管理の責任を長期間、背負うおそれもある。
 民主党政権原発輸出を成長戦略の目玉に据えていた。しかし実際に事故が発生し、巨大な被害を目の当たりにしたいま、何ごともなかったかのように既定路線を走ることは決して許されない