[防衛相問責可決]この埋め難い溝は何か

沖縄 タイムス社説より

 首相が陳謝し、防衛相、防衛事務次官が相次いで来県し仲井真弘多知事に頭を下げる。更迭された前沖縄防衛局長も沖縄に派遣し、直接謝罪させるという。最大級の陳謝のオンパレードにもかかわらず、誠意が伝わってこない。防衛相らが頭を下げるのは沖縄の怒りを沈静化させる狙いがあるが、いくら頭を下げても溝は広がるばかりだ。 なぜか。米軍普天間飛行場辺野古移設のための環境影響評価(アセスメント)の最終段階となる評価書を年内に県に提出する考えはいささかも変更はないからだ。 防衛省の陳謝と沖縄の認識のずれはいかんともし難い。そのずれに気付いていないのは致命的である。
 田中聡前沖縄防衛局長が辺野古移設手続きを「犯す前に犯しますよと言いますか」と性暴力に例えた沖縄への向き合い方は何も変わらない。
 参院は9日の本会議で一川保夫防衛相、山岡賢次消費者行政担当相への問責決議案を野党の賛成多数で可決した。
 問責決議に法的拘束力はないが、野田佳彦首相は一川氏と電話会談し「懸案事項が多いから、しっかりやろう」と続投の方針を確認した。一川氏も「反省するところは反省しながら職務を全うしたい」と辞任を否定した。
 「しっかりやろう」と言い、「職務を全うする」とは何なのか。県知事、県議会、名護市長、市議会が反対する中、普天間辺野古移設を進めようとする暴力性が田中前局長の「本音」であらわになったというのに、政府は米国におもねり評価書を年内に提出するということだ。何も反省していない、と言わざるを得ない。
 一川氏の辞任を求める問責決議は、前沖縄防衛局長の暴言に対する監督責任、1995年の米兵による暴行事件を国会で「詳細に知らない」と答弁したことを問うものだ。就任時には「安全保障の素人」と発言している。ブータン国王夫妻歓迎の宮中晩さん会よりも、民主党議員の政治資金パーティーを「こちらの方が大事だ」と優先した。
 問責決議前には、防衛省上層部の懲戒処分が発表された。一川氏(在任中の閣僚給与全額を自主返納)、田中前局長(停職40日)のほか、副大臣と両防衛政務官事務次官も一斉に処分を受けたが、誰のため、何のため、なのか。
 一川氏の資質の欠如は明らかだが、沖縄にとって問題はそこにはない。仮に防衛相が更迭されたとしても、本質的問題は残るのだ
 謝罪や処分がうわべだけでないことを示すには、政府が評価書の提出をやめ、辺野古移設を断念するしかない
 野田政権が辺野古移設にこだわる限り、防衛相らがどんな処分を受けようが、沖縄防衛局長に誰がなろうが、問題は何も解決しない。
 政府、民主党は問責の追及で混乱することを恐れ、国会はこの日で閉会した。国家公務員給与削減の臨時特例法案は先送り、国会議員定数の削減は法案提出さえできていない。身を切る覚悟をみせないまま消費税増税論議が進むことに対する批判は免れない。