復興と消費増税 善意に乗じてはいけない

琉球新報1年前の社説から2011年4月21日
 東日本大震災の被災地や被災者支援のためには、一定の増税もやむなしとする国民世論が顕在化する中、予想通りと言おうか、消費増税の案が出てきた。
 25兆円と試算される当面の復興財源に充てるため、政府・民主党内で消費税率を3%引き上げ、8%とする案が急浮上している。国債である「復興再生債」を発行し、償還のために消費税率アップを図る構想である。
 消費税の特徴は、広く薄く負担を求めることができ、ほぼ全ての消費活動から税を得られる点だ。復興財源の確保は喫緊の課題だが、消費増税分は所得の低い層、ぎりぎりの収入で生活を営んでいる経済弱者にものしかかる。
 何よりも被災者の生活にも負担を強いる恐れがあるにもかかわらず、被災者の痛みを分かち合おうとする国民の善意に乗じたなし崩し増税の感が否めない。
 最も重要な国民の合意形成という観点からも拙速で納得できない。議論が生煮えのまま、消費増税に踏み切れば、消費者の負担感が増し、低迷する日本経済の新たな足かせにもなりかねない。
 住宅や車など、購入額がかさむ商品は3%増であっても特に負担が重くなる。経済波及効果が高い分野の消費マインドが一気に冷え込むことは避けられないだろう。
 被災者や経済弱者に思いを致しつつ、臨時的に増税するならば、所得税法人税を検討するのが本筋ではないか。両税を10%引き上げても年約2兆円の税収増しか見込めず、税率1%で2兆5千億円を確保できる消費税が手っ取り早いという論理がすんなり国民の共感を得られるとは思えない。
 消費税率アップを虎視眈々(たんたん)と狙う菅直人首相が、復興を掲げながら財政再建に道筋を付けたいという思惑もあるだろう。
 復興にめどが付いた後も社会保障目的税として税率を維持し、悲願の財政再建を成し遂げたいという財務省の影もちらついている。  増税論議を加速する前になすべきことは山ほどある。復興以外の既存予算に大なたを振るうことは避けて通れないが、具体策は何も見えない。
 防衛費や米軍への思いやり予算普天間飛行場の代替新基地建設費などはその筆頭格だろう。
 景気を悪化させず、国民が納得する手順で被災者を苦しめない復興手法を確立する。与野党の知恵を総結集し、議論を深めるべきだ。