=欧州と原発=最終処分受け入れ補助金より対話

佐賀新聞2015年05月08日 10時44分


 2011年3月に起きた福島第1原発事故以降、原発をめぐる各国のスタンスが変化し、再生可能エネルギーへの政策転換を図る国が増えている。ことし2月、日本記者クラブ取材団としてドイツなど欧州3カ国を訪れた。「核のごみ」の最終処分問題や再生可能エネルギーの普及、脱原発といった課題に各国がどう取り組んでいるのか。玄海原発をはじめ日本の現状を踏まえながら報告する。
 「ここが一番安全だと専門家が言うなら受け入れるべきでしょう」
 スウェーデンの首都ストックホルムの北約100キロにある人口約2万人のエストハンマル自治体。マルガレータ・バレグレン副市長は、原発の使用済み核燃料の最終処分場として「核のごみ」を受け入れる理由を明快に説明する。
 最終処分場を建設、運営するのは電力会社が出資した核廃棄物管理会社「SKB」で、候補地選びは1970年代に始まった。2000年代に入り、原発が立地するエストハンマルと南部のオスカーシャムの2カ所に絞り込んだ。
〈10万年の管理〉
 核廃棄物の地層処分といっても、使用済み核燃料に含まれるプルトニウム半減期は2万4千年。理論上、「安全」といえる程度になるまで10万年の「保管」期間が必要とされる。
 SKBのクリストファー・エッケルベーグ社長は言う。「選定過程で一番大切にしたのは会社の開かれた姿勢。両自治体の住民と顔を合わせ、最終処分場ができることでどんな影響が出るのか。対話のプロセスに時間をかけた」
 最終的に09年、岩盤がよりしっかりし、地層に水が少ないエストハンマルのフォルスマルク村を選んだ。福島第1原発事故が発生した11年3月には、立地・建設許可を放射性安全機関(SSM)に申請。予定では19年に建設着手、20年代末の稼働を目指す。貯蔵容量は約1万2千トンで、国内で稼働する10基の原発から出る使用済み核燃料を受け入れる。
>〈次世代への責任〉
 常に「トイレなきマンション」との批判を受け続けてきた原発。現在、最終処分場の予定地が決まっているのは、スウェーデンフィンランドの北欧2カ国にとどまる。日本も70年代から地層処分の研究を開始し、02年からは候補地の公募を始めた。しかし、正式に立候補し、調査に入った自治体はなく、国は公募方式をあきらめ、自ら複数の適地を選定する方針に転換する。
 ただ、3月には九州電力玄海原発1号機(東松浦郡玄海町)など運転開始から40年を経過する老朽原発5基の運転延長を断念した。日本も本格的な「廃炉時代」に突入したが、解決すべき大きな課題の最終処分場の選定は、いまだに見通しさえ立たない状況が続いている。
 日本は今後、スウェーデンから何を学ぶべきか。宗教学者スウェーデン政府の助言機関・原子力廃棄物協議会のブローケン・ヒエルム議長は「原発で利益を得た人は責任を持って処理し、次の世代に渡す義務がある」。倫理面での世代間の責任論を強調する。
〈住民の信頼〉
 事業者のSKBは、候補地に残った2カ所に教育やインフラ整備に使う約350億円を助成する。日本のように国からの交付金など公費の「経済的見返り」はまったくないという。
 「技術的に最適地なら」と話したマルガレータ副市長は、補助金という「アメ」ではなく、住民の政府や事業者に対する「信頼」が、受け入れの大きな要素だったと指摘する。「住民の80%は受け入れに前向き。それは協議に参加できて、聞きたいことの返事もしっかり返ってくるから」。そして最終的な意思決定の方法にも触れた。「できれば住民投票をしないでいいようにしたい。みんなが納得し、安心して決める形が望ましい」