なぜ電車だと眠くなる? 

研究でわかったその理由 快眠への活用も
乗り物ニュースより
 電車に乗っていて、ついウトウトすることはないでしょうか。東京工業大学の伊能研究室では、そうした電車と眠りの関係を研究。ある揺れ方をする電車は、眠くなりやすいことを発見しました。はたしてそれはどんな揺れなのでしょうか。また、揺れを活用して快眠する時代も今後、訪れるかもしれません。
きっかけは電車で眠る息子
 電車に乗ったとき、ついウトウトしてしまったこと。経験のある人は多いのではないでしょうか。気持ちよく寝てしまい、「ハッ」と気づくと終着駅。うっかり乗り過ごしてしまったというのも、よくある話です。
 なぜ電車は眠りを誘うのでしょうか。実は「揺れ」が関係しているそうです。東京工業大学の伊能教夫教授は、電車をきっかけに「眠り」と「揺れ」の関係を研究。ある低い周波数の揺れを含むと眠りやすくなることが判明したといいます。

電車に棲む「睡魔」。はたしてその正体は?
 伊能教授がその研究を始めたのは、いまから10年前。電車好きのお子さんと、電車に乗ったときがきっかけだったそうです。
「息子がある一定の区間になると毎回寝てしまい、その区間を過ぎるとパッと目が覚めることがありました。また、よく眠る路線とそうでない路線というのもありまして、これは電車の揺れが関係しているのではないか、と思ったのです」(東工大・伊能教授)
 そこで伊能研究室では、首都圏の9路線で電車の「揺れ」と「睡眠」について調査。加速度センサで車両の揺れを計測し、周波数分析しました。合わせて車内で寝ている乗客の数をカウントする方法で、乗客の睡眠率を調べたそうです。
判明した「眠りやすい揺れ」
 そうした調査と、研究室で機械的に揺らす装置を製作して実験した結果、1Hz程度の低い周波数を含む揺れが眠くなりやすいことが示されたと伊能教授はいいます。「1Hz」とは1秒間に1回振動すること。電車の揺れはこの1Hz程度の振動を含んでいることが多く、そのため眠りを誘いやすいことが分かったのです。
 となると調査したうち、どの路線が特に眠くなりやすい揺れなのか、気になるところですが、伊能教授によると「路線については10年前の計測なので、車両や線路の状態は、その当時とは変わっている可能性があります。ですので、眠りやすい路線は当時と必ずしも同じではないかもしれません」とのこと。車両や線路、速度などで揺れは大きく変わってくるため、眠りやすさもいまとは違っている可能性があり、誤解を招く恐れがあるので答えられないそうです。
 また伊能教授は、約1Hzの周波数でも揺れ幅が大きいほど眠りを誘うわけではないといいます。
「機械装置による実験では、はっきりした揺れよりも揺れているか揺れていないかぐらいのほうが眠りやすい傾向が出ています」(東工大・伊能教授)
 そして揺れは、ときには気持ち悪くなることもあるといいます。いわゆる「乗りもの酔い」です。
 しかし、赤ちゃんは抱っこして揺らすことで泣き止みますし、大人でもハンモックで気持ちよさそうに眠ります。適切な揺れは身体に悪いことではありません。伊能研究室では、そうした揺れを活用すれば、快適な睡眠ができるのではと考えて、研究を行っているそうです。
「揺れ」で子育てがしやすくなる?
「睡眠を誘導できる環境を人工的に再現できれば、不眠症などの解決に繋げることができます」(東工大・伊能教授)
 揺れによって効果的に眠れるようになれば、夜勤の人が短時間だけすぐ眠りたい場合や、また夜泣きしている赤ちゃんを鎮めて眠らせるのにも役立つ可能性があります。伊能研究室では、人工的に揺れを起こすイス型とベッド型の装置を製作。揺れによって被験者が睡眠に入る時間がどう変化するかなど、調査しているそうです。
 ただ伊能教授によると、この研究はまだ調査段階だといいます。「1Hz程度」の周波数が眠りを誘いやすいことはわかったのですが、「より睡眠に効果的な周波数を明らかにしたい」とのこと。また揺れ幅による効果のほかに、縦揺れと横揺れのどちらが効果的か、といったことも調査しているそうです。
 将来、人工的に揺れを起こして快眠を得る日が来るかもしれません。