"今あるもの"磨きブランド化―小さな山村の挑戦 福井小浜・中名田地区

 「茅狩りツアー」は約10年前から休耕田対策として、自生する茅を古民家の屋根の材料としようと始めたもので、これまで学校などからボランティアを募り、茅狩り体験を実施してきた。これを「茅狩りツーリズム」として売り出そうと準備を進めている。
茅狩りツアーや地酒 村の暮らしを感じる旅を
 実際に刈り取った茅は古民家や寺に出荷。市内の国指定重要文化財・萬徳寺など徐々に利用箇所は増えてきている。茅の事業化は京都・美山から学んだ本格的なもの。ツアーでは住民との共同作業で地域とのふれあいが体験できることも大きな売りだ。森の郷なかなた産物組合長の大道泰純さんは「利益はそう上がるものではないが、いい形で活用できれば」と黙々と作業を進める。
小浜市中名田地区のむらおこし
 特産品開発は地産地消にこだわる。13年度にブランド米「田村米」を使った地酒「田村のめぐみ」を開発。現在大半を地区内で消費・販売するなど流通面ではまだまだだが、同協議会事務局長の西浦三郎さんは

「日本酒好きの方が探し求められるほか贈答用にも利用していただいています。今後は流通面にも力を入れたい」と話す。

地酒「田村のめぐみ」
 実際の味は、アルコール度数が約20度と高く、米の美味さを感じられる深い味わい。同協議会代表の坂下憲治さんは「氷を入れて飲むとちょうどいい美味しさです」。
 また、中名田発祥の伝統産業「若狭和紙」の継承のため、和紙を使ったオリジナル卒業証書ツアーも計画。これまで市内小学校を対象に「御食国若狭おばま食文化館」で実施していたが中京・関西の小学校まで対象を拡大する。
「山の小浜」売り出す
 紙漉き体験をすると、うっすらと校章が透けて見えるというもので、同地区区長会会長で和紙職人の芝三津男さんは「地域の伝統も伝えられますし、子どもたちの思い出になります」。

伝統の若狭和紙の紙漉きも旅の素材に
 そのほか、300年以上続く市無形文化財「松上げ」の観光交流イベント化や、秘仏めぐりツアー、ウオーキングなど「今あるもの」をフル活用していく予定だ。
 小浜市ではほかにも阿納地区など漁村の取り組みも活発化。中心部は歴史、海の資源が観光の目玉だが、各地区では住民レベルで観光の底上げが図られている。
 同協議会では住民が酒を酌み交わしながら地区の今と未来を語るのが通例。今回の事業採択を有効に活用しようとベテランから若手、市職員までが活発に議論を進めている。「後を任せられる若手も出てきました。この元気が中名田の大きな武器」と坂下さん。
 地区内には茅葺き民家、田園と森林など欧米人が求める「日本の原風景」がある。協議会では「海の小浜に対して、中名田は『山の小浜』で売り出したい」と強調。元気×「今あるもの」で過疎地域活性化の好例に、中名田がなる。