藤沢周平の作品と人物に触れて…その8 

 いま、藤沢周平とその作品が“志たかく情あつい”歴史・時代作家、作品として新たな注目が集まっています。そうした作品を産み出してきた彼自身のことばを聞けば改めてそのいまの評価と注目が理解できます。いくつかを紹介します。出典は、彼のエッセイ集“ふるさとへ廻る六部は”です。

『ふるさとへ廻る六部(巡礼)は気の弱り』 山形出身の藤沢周平が初めて青森、秋田、岩手へ旅した時の気持ちを自嘲的に表現した古川柳

【似て非なるもの】
 私の意識の中では、都市はどんどん変貌するもので、農村は変わらないものだった。私は農村生まれなので、郷里は母なる大地である。母なる大地にそうくるくる変わられては困るという思い入れもあったが、事実農村はあまり変わらなかった。戦後の農地改革でさえも、農村の本質を変えるには至らなかった。
…(中略)…
 だが昭和30年代後半以降に、農業近代化の名前で国が後押しした農村改革はそんな生やさしいものではなかった。そのすすみ具合はひたすらにせわしなくて、やがておなじみになった新しい農村風景が出現する。
…(中略)…
 しかし、私は近年になって、農村は急激な近代化をついに消化しきれずに解毒不能の毒が回ったのではないかと疑っている。陳腐な言いぐさだがむかしの農村には自然と共存する喜びがあった。しかしいまはどうか。農薬まみれの自然、バイオテクノロジーがらみの自然とは、共存は可能でもそこに喜びがあるとは思えない。草は緑、小流れの水は澄んで、一見してむかしと変わらない農村風景に、私は近ごろふと似て非なるものを見てしまうといった感想を、郷愁ではなく漠然とした懼れから記しておこう。
 農業後継者は減りつつあるが、大規模経営化をすすめるにはその方が好都合だという声もあって、農村はいま都市も真っ青の変革、農業近代化を完成しようとしているところのようである。
(「日本近代文学館」平成2年11月15日)

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