安武ひろ子さんの歌集“いのち愛おしく”に思うその1

 安武ひろ子さんが歌集第4集“いのち愛おしく”を発刊されました。その歌集の感想を、機会をいただき同人誌“はばたき”(兵庫文化クラブ発行)第11号に掲載していただきました。編集責任者のご了解を得て当ブログに転載します。歌集ご希望の方は取り次ぎさせていただきますのでお申し出ください。“はばたき”もご希望の方はご連絡ください。

平和希求と人間讃歌、楽天的信念が道を生む
―安武ひろ子さんの歌集「いのち愛おしく」に思う―
松岡 武弘  
旅のおみやげ
大自然に身をまかせて「ぜいたくな旅」でなく「旅のぜいたく」を…
 「市場にね犬、猫、蛇、何でも売ってるの!そんな後で、肉料理なんか食べれませんよ!」「グァムの碑をみるのに泥山を泥んこになって這いあがったのよ!」「旅館でね、夜中に突然、守衛さんが鍵あけて部屋に入ってきてもうビックリ!」「ホテルの部屋で窓からアルプスの山を眺めて読書するって、ホント旅の贅沢よ!」などなど、旅の話しも一生懸命でユーモラスにされる安武さん。
 旅の後、エレベーターのない4階の事務所に土産ばなしをもって必ず訪ねてこられる。本当に楽しそうな様子で、私たちも時の経つのも忘れて一緒に大笑い。お話しの中身もそうだけどなによりも、傘寿を迎えてなお元気に訪ねてきていただけるのが大変嬉しい。時にはクレームもあったでしょうに、直接にはおっしゃることなく、面白可笑しく話される中から、ああそういうことだったんだと心中推し量ることたびたび。

 石楠花は女王のごと咲きておりクイーンズタウンの湖畔を埋めて
 森中の隠れ家めき小さき宿窓近く小鳥チチ、チチと鳴く
 人影も絶えたる湖畔の水芭蕉白も豊かにただ咲き続く

 湯煙の彼方に朝日昇りきぬ露天のわが身ピンクに染まる
 山の湯の朝湯にひたり全山の燃ゆるもみじに心ゆだぬる
 携帯もテレビも圏外音絶えし深きしじまに人を恋いおり

※加害・被害を乗り越えて交流の旅に
 そんな旅道中が「平和のための絵画展」でおなじみの油絵の題材かと思いきや、歌にまで詠まれていて、立派な歌集にビックリ。それもすでに第4集!第3集が10年前とすると、それまでの超多忙な生活から少しは解放されて、旅をする余裕?ができた時期。こんどの歌集に旅の空で詠まれた歌がおそらくもっとも多いのでしょう。戦争遺跡を巡り、平和のためにたたかう人々と交流し、そして人間の小さな営みに触れた歌を詠まれています。
 ガイドブックになき刑務所博物館日本の修学旅行生に行き会う
 己が身が囚われし思いに「働けば自由になる」の門潜りゆく
 泥まみれで着けば碑のあたり島民の虐殺されたる名前の並ぶ

 日本大使館への毎水曜日の抗議デモ慰安婦の苦労今も続ける
 肥沃なる土地はみな基地観光に頼る外なしとチャモロは嘆く
 眼をむきて舌出しカメラにポーズするマオリの挨拶に笑いがおこる

※旅は人生の旅とかさなりふと大切なものを思い出させます
 旅のお世話をしている私にとって、安武さんの旅の歌に触れることで改めて仕事に誇りが持て、人間にとっての旅とは…を学ぶ機会にもなりました。

 旅の空に聞くコカリナの「ふるさと」にふと涙ぐむ父母の恋しも
 旅に来て悲しかりけりやや呆けし友の老いを目の当たりにして
 何を得て何失いし一世かと旅来し異郷でふっと思いぬ

 懐かしき人次々と尋ね行き満ち足りて終わるわが小さき旅
 小さき旅終えて機上の人となる明日からなすべきことを思いつつ
 感動は疲労に変わり我が家にどさっと投げ出す旅の荷物を   続く