COP16から

メキシコカンクン現地から“カンクン通信”が届きましたので紹介します。
カンクン通信5 (2010年12月10日 メキシコ・カンクン
「カンと千尋の物語」 ファイナンシャル・タイムスに意見広告
日本時間の10日には、地球温暖化に関するキャンペーン団体、Avaazとtcktcktckが、「ファイナンシャル・タイムズ」に、日本政府が国連会議を妨害しているとする菅首相へのメッセージ広告を掲載しました。広告は、宮崎駿監督の映画『千と千尋の神隠し』をパロディにしています。メキシコ時間で12月9日の夜に行われた記者ブリーフィングでは、tcktcktckのポール・ホースマンさんが、日本が初日の発言に始まり、水曜日に政府が繰り返した発言によって、2週間に及ぶ建設的な会議に暗雲をもたらしたこと、日本の強硬な姿勢は、来年、南アフリカでの会議で、法的拘束力のある国際合意に達するために、カンクンで決定すべき合意のパッケージを話し合うための交渉に悪影響を及ぼし、交渉全体の進展を阻んでいると語りました。
ホラー映画「京都議定書投げ出し」 ―地球温暖化防止の国際協定が流される:カンと千尋の物語― 日本の菅直人総理大臣は、日本が京都議定書の次期約束期間を拒否しても、地 球温暖化防止の国際合意ができるという幻想の世界に生きています。メキシコで 開催されている国連会議が泥沼の様相を呈している中、世界は菅首相をその夢想 から叩き起こさなければなりません。もし管首相が京都議定書を投げ出せば、地 球温暖化の新たな国際的合意そのものが夢と終わってしまいます。 AVAAZ.ORG http://avaaz.org/とTCKTCKTCK.ORG http://tcktcktck.org/ は、地球に生きるすべての人々とともに、みんながバランスを取ろうとしている この交渉において、菅直人首相と日本政府が京都議定書の下での削減を約束し、 カンクン合意が夢となって終わらないように強く求めます。

COPとCMPの決定草案
会議最終日12月11日(金)午後5時前、COP/CMP議長の、議定書AWGの決定草案と条約AWGの決定草案が配布されました。CMPの決定草案は、京都議定書の第2約束期間を想定したテキストになっています。先進国の削減幅については、IPCCの第4次評価報告書の25-40%削減が認識すべき知見として書き込まれており、先進国の削減目標をできるだけ早期に、第1約束期間と第2約束期間の間に空白期間を開けないように決定するとされ、事実上、COP17で決定することになっています。先進国の削減目標については、補助機関会合(SB)の情報文書(INF)に書き込み、それを留意(Take note)することになっています。
COPの決定草案は、すべての括弧やオプションが無くなり、全部で32ページのテキストになっています。共通のビジョンについては、世界の気温上昇を工業化以前より2℃未満に抑えることが確認され、最新の科学的知見に基づいて気温上昇を1.5℃に抑えることも検討するとされています。残念ながら温室効果ガスの世界的な排出のピークについては具体的なピークアウトの年が書かれていませんが、できる限り早くピークを迎えるように記載されています。アメリカの排出削減目標については、議定書の先進国と同様の文言で、補助機関会合の情報文書に書き込み、それを留意することになっています。途上国の削減行動についても、情報文書に書き込み、それを留意することになっています。適応については、適応国家行動計画(NAPA)の実施、適応委員会の設立と今後のプロセスが書き込まれ、地球温暖化の影響が出た場合の損失及び損害の文言については、中身についても若干触れられ、作業計画を決めることになっています。資金については詳細に書き込まれています。例えば、短期資金の透明性を確保できるように、2011年、2012年、2013年の毎年5月に拠出額を提出することと、新しい基金を通して適応などに資金が提供されること、新しい基金を設計する暫定委員会のメンバーは途上国と先進国が同人数であることなどです。これまでどういう形の基金になるかが見えてこなかったものが、具体化されて記載されています。
これがそのまま通れば、カンクン合意は包括的合意に向けて重要な一歩を踏み出したと言えます。ただ、残念なのは、島嶼国などが主張していたように、来年、法的拘束力のある合意をするということが抜け落ちていることです。
カンクンは、午後10時ですが、15分前から開催された総会で議論が始っています。多くの国はこのまま採択することを求めていますが、ボリビアがこれでは文言が弱いと強く反対した上に、キューバベネズエラサウジアラビアも合意まであと一歩だが、もう少しだけ議論をしたいと発言しており、このまま採択されるかどうかわからない状況です。
資金問題
資金問題は、2013年以降の枠組みにおける重要な交渉テーマになっています。先進国から途上国への、予測可能で、信頼性があり、継続的で、十分な資金を確保できる資金システムの構築が大きな課題になっています。
現在の国際交渉では、短期資金(2012年まで)と長期資金(2013年以降)についての資金メカニズムについ議論がなされています。
短期資金の主な論点は、これまで先進国が提供してきた(あるいはすべき)資金規模とその透明性の問題です。気候変動枠組み条約と京都議定書には3つの基金がありますが、先進国のこれらの基金への拠出は任意です。また、条約事務局への資金は把握されていますが、それ以外に二国間あるいはその他の機関に拠出した分の報告方法などについてはルールがないため、先進国から途上国の気候変動問題への拠出額などの情報についてはデーターベースがありません。今後、規模を定め、国ごとの拠出額などの情報を把握して資金の透明性を図るためには、必要な情報とデータを定義し、制度化していく必要があります。COP16では、このような報告制度を確立するプロセスの合意が求められています。
長期資金については、コペンハーゲン協定にて、先進国が2020年までに1000億ドルを気候変動対策のために確保することが約束されています。今年の2月には国連総会によって 政府高官などが参加するハイレベル・アドバイザリー・グループ(High-level Advisory Group on Climate Change Finance -AGF) が設立され、約束された規模の革新的な資金源の可能性についての調査が行われてきました。11月に提出された報告書は、排出される炭素について価格を上乗せする方法で、相当な資金が集まるとされています。方法については、以下のものが提案されています。

  • 国際的な排出割当量のオークション。(例えば削減目標が40%だとすると、排出割当量は60%。この一部をオークションに出し、資金を確保する方法。)
  • 国内の排出量取引制度での排出割当量のオークション
  • カーボン・オフセットへの課税
  • 国際船舶及び航空利用への課税
  • 電力利用への課税
  • 途上国の化石燃料補助金の削減
  • 化石燃料採掘ライセンス料の利用
  • 炭素税
  • 外貨為替交換
  • 国の予算への組込み

報告書では、これらの資金源により、約束された規模の資金を拠出できるとされています。
AGFは交渉とは別のプロセスで報告書を作成されてきましたが、交渉では同時並行で、これらの資金の性質、運用組織、資金配分などについて議論されてきました。10月の天津会議での長期資金についての主な論点は、条約の下に新しい基金を設立し管理するか、あるいは既存の国際金融機関を使うかということでした。一方で議長のノートによれば、a.新規で、追加的で、十分で、予測可能な資金源を確保すること、b.COPの権限とガイダンスの基に資金が運用されることc.効率的で効果的であること、d.実施機関の資金へのダイレクト・アクセスe.緩和と適応にバランスよく配分し、最も脆弱で資金を得られない国を優先することなど、運用機関の機能については、ほぼ合意が得られているようです。問題は、AGFの報告書は、会議が始まって早い段階でAGFの共同議長であったエチオピアから意見提出という形で条約事務局に提出され、文書の中での取扱いが議論されました。11日に配布された決定草案には、AGFの報告書についても留意されています。

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