山家妄想

高砂市 臨済宗龍澤寺住職水田全一師の随筆を紹介します。
 無法には無法で?
 9.11テロの首謀者とされるアルカイダのウサマ・ビンラディン容疑者が殺されたという。
 パキスタンに潜伏中の隠れ家をアメリカの特殊部隊によって、急襲・殺害された模様はアメリカ大統領オバマ氏もテレビで観戦していたという。まことにドラマティックなアメリカらしい演出であった。
テロリストの報復を恐れ、殉教者として美化されることを慮り、死体の写真は公表せず、取り急ぎ空母から「水葬」してしまったという念の入れようだ。
それにしても、容疑者は抵抗したので殺害したというが、武器は持っていなかったという。かりに格闘技に長けた「つわもの」であったとしても、武装した特殊部隊員が生きた身柄を拘束することが出来なかったなどということは考えられない。
 初めから殺害する命令が出された計画であったとの話が出てくるのも理解できる。同時に拘束された妻と子どもがいたということも、それを裏付ける。
とすれば、テロに対してテロをもって応じたという、まさに報復の行動であった。
 報復の連鎖が拡大しはしないかという恐れがとり沙汰されるのも当然である。
写真に見るビンラディンの風貌とアルジャジーラなどで流れる声音は、敬虔なイスラム教徒としての印象で、凶暴なテロリストのイメージにはそぐわない。なぜ身柄を拘束して国際的に公開された場で弁明させ、公平な裁きを下すことを避けたのか。
 彼が実際に9.11の首謀者であったとすれば、事件の背景やテロ組織の実態の解明を通じて、根源的にテロをなくす方途も明らかになった可能性があったのではないか。世界の不安を解消することに資したと考えられはしないか。
 アメリカはかれの潜伏していた場所から推測してパキスタン政府当局の関与を疑い、パキスタン政府に解明を求めているという。
いまさらの要求と思うが、これも公開裁判に持ち込んでおれば解決するものであった。
 わたくしはこの要求以前に主権国家であるパキスタンに、事前の断りもなく(断ってすむ問題ではないが)ヘリで特殊部隊を降下させ、第三国人を殺害するというアメリカの軍事行動が許されるものなのか疑問に思う。かつて日本で行われたKCIAによる金大中事件を想起した。明らかな主権侵害である。
 己が考える「正義のため」ならば何をしても許されるという、世界の憲兵を自認した独善的な覇権国家の本性を暴露していると思うがいかがか。
 このような本質を持つ国家と同盟関係を強化することを、前進と考えることがいかに危険か考える必要があろう。覇権国家にとって目下の同盟国は従属国と同義である。主権侵害など日常茶飯となることは目に見えている。すでに現在、それは沖縄のみならず眼前に日常的に展開されているではないか。
 東日本大震災の陰で普天間基地移設の問題は霞んでいるように見えるが、「オトモダチ作戦」など放射能防護の特殊部隊をも含めたアメリカ軍と自衛隊の共同作戦は進んでいる。更なる日米同盟の強化などと称揚して従属をさらに進めるのか、わたくしたちは覚悟して思案しなければならない。(2011/05/10)