[アセス知事意見]今こそ方針転換の時だ

沖縄タイムス2012年2月21日より
政府が示した環境保全措置では、名護市辺野古一帯の豊かな生態系や希少生物、静かな生活環境は守れない―。
 米軍普天間飛行場辺野古への移設をめぐり、沖縄防衛局が提出した環境影響評価(アセスメント)の評価書に対し、県が出した知事意見は、辺野古への代替施設建設に、明確な拒否の意思を示すものだった。
 知事意見は、県環境影響評価審査会(宮城邦治会長)の答申を反映した内容となった。
 辺野古への移設は「環境の保全上重大な問題がある」と指摘し、政府の保全策などでは「生活環境および自然環境の保全を図ることは不可能」と結論づけている
 前文では、仲井真弘多知事自身の政治姿勢も記述した。「地元の理解が得られない移設案の実現は事実上不可能」だとし、普天間の危険性除去のためには、県外移設が合理的で早期の課題解決につながる、と訴えた。
 沖縄防衛局が昨年末に提出した評価書は、「周辺に及ぼす影響はやむを得ず出るものの、環境保全上、特段の支障はない」というものだった。知事意見は、評価書に真っ向から反論する内容だ。
 知事意見を無視して手続きを進め、埋め立て申請を強行すれば、住民の意見を反映させる民主的な手続きであるアセスを形骸化させるだけだ。アセス制度そのものが、政府の手によって崩壊しかねない。
 県知事がノーを突き付けた意味は極めて重い。
 知事意見は、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ絶滅危惧種ジュゴンなどで、175件の問題点を挙げ、アセスのずさんさを突いている
 政府はオスプレイの県内配備計画を隠し続け、方法書、準備書に続く環境アセス手続きの最終段階である評価書になって初めて、オスプレイの影響を明記した。知事意見は、重要な環境情報の「後出し」に対し「環境影響評価制度における前例となることに大きな懸念を抱いている」と厳しく批判した。
 ジュゴンの生息環境についても、「餌場への移動を阻害するような影響はない」と指摘する評価書に対し、知事意見は「多数の作業船などの往来で、ジュゴンの移動を分断する可能性があり、繁殖のための移動にも影響するおそれがある」と反論している。
 これほどまでに事業そのものを批判したアセスは過去にないのではないか。地元を無視した強引な手続きと、辺野古ありきのずさんな内容は、環境アセス制度の趣旨を逸脱したものだと言わざるを得ない。
今回の知事意見は、「埋め立て事業」と「飛行場建設事業」のうち、飛行場分に関するものである。3月27日が提出期限となる埋め立て事業分についても、厳しい内容となりそうだ。
 この期に及んでも政府は、辺野古移設に固執しているが、米軍飛行場建設のために環境アセス制度を葬り去るようなことがあってはならない。
 普天間問題は日本のアセス制度の今後を占う試金石だ。