大飯3、4号機の再稼働の必要は無い

〜関電管内のピーク電力と大飯原発再稼働についての検討〜
2012年6月12日
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)
1 大飯3,4号機の再稼働と関電管内の今夏の電力不足
日本政府は、関電管内では、今夏のピーク電力時に14.9%の供給不足が生じる可
能性が有り、停電などの供給不足を起こさないためには大飯3,4 号機の再稼働が必要としています。
この根拠となっているのが、エネルギー環境会議の電力需給に関する検討会合の
「需給検証委員会報告書」(平成24年5月)です。一方、関電は5月15日に大阪府市のエネルギー戦略会議に、「今夏の需給対策について」を提出し、供給力確保や需給対策により予備力不足は5.1%に圧縮でき、大飯3、4号機が再稼働できれば14.9%の予備力不足は0%に解消できるとしています(別表1)。しかし、この関電の予測は、供給量は過小に、需要量は過大に評価されているなど、その想定には多くの疑問があります。
CASAの検討では供給量が需要量を下回ることは無く、大飯3,4号機の再稼働は必要ありません。
2 政府予測、関電試算とCASA 試算関電管内の電力需給についての政府予測、関電予測、CASA 予測を表にしたのが別表2です。
別表2の右から3つ目の「政府予測2012/5/7」が15%の供給不足が生じるとする政府予測で、右から2つ目の「関電試算2012/5/15」が関電が大阪府市のエネルギー戦略会議に提出した試算です。一番右の「CASA試算」がCASAの考える供給力と需要です。
「CASA試算」が政府予測や関電予測と大きく異なっているのは、揚水発電の供給力と需要予測です。揚水発電の供給力と需要予測を昨年(2011年)実績とするCASAの試算では7%程度の予備力があり、大飯3,4号機を再稼働させる必要はまったくありません。
2-1 揚水発電の過小見積もり
政府や関電は揚水発電を239万kWしか計上していませんが、CASA試算では465万kWを計上しています。この465万kWは2011年実績値です。関電には506万kWの揚水発電設備があり、CASA試算は92%程度を稼働させるに過ぎません。CASAの想定と政府・関電の想定とでは226万kWの差があり、これは大飯3,4号機の発電量238万kW にほぼ匹敵し、揚水発電量を2011年実績で想定すれば、大飯3,4号機は稼働させる必要がないことを示しています。
「需給検証委員会報告書」は、「ポンプの能力、夜間の汲み上げ時間(=昼間の運転必要時間)などの制約から上部ダムを満水にできない」ことを理由としています。しかし、揚水発電は負荷に応じた出力調整が可能で、ピーク電力時のみにピーク利用すればよく、中部、北陸、中国などの予備力のある他電力の昼間の融通を強化することで、関電管内の揚水発電の昼間の運転時間を短縮することは十分可能と考えられます。さらに、十分余力のある東電や東北電力から融通可能量100万kWを昼間に融通することで、関電管内の揚水発電の昼間の運転時間を短縮することも可能です。
また、2011年夏に「関電試算2012/5/15」の供給力2752 万kW を超えたのは6時間に過ぎません。「政府予測2012/5/7」の供給力2542 万kWを超えたのも100時間です。この程度の時間、揚水発電を92%程度稼働させることができないとは、到底考えられません。
2-2 需要の過大見積もり「需給検証委員会報告書」の需要想定は、2010年の猛暑時のピーク需給量を前提に、2010年から2012年の景気上昇分を経済影響として見込み、これに2010年から2011年の需給減少分から定着している節電分を控除したとされています。
気象庁は、2010年夏(6月〜8月)は1898年に統計を開始してから最も暑い夏で、これまで最も暑かった1994 年を0.28℃上回ったとしています。113年間で一番暑かった時のピーク電力を想定の前提とすることは明らかに過大想定です。
気象庁は2011年夏と秋は全国的に高温だったとしており、2011年夏の実績値を前提とするCASA の想定は決して過小ではありません。
ちなみに、「需給検証委員会報告書」の各電力の需要想定は、別紙3のとおり軒並み2011年実績を大きく上回って、その合計は1345万kWにもなります。中国、北陸、中国電力だけでも252万kWになります。この252万kW だけでも大飯3,4 号機を超えています。
さらに、ピーク電力は電力各社で同じ日同じ時刻に出るわけではありません。2010年の中西日本6電力の最大電力の単純合計は9925万kWですが、実際の最大電力は9811万kWと114万kW小さくなっています。このことは、大飯3,4 号機の1基分に相当する電力が中西日本の5電力から融通が可能なことを示しています。
これらのことは、融通電力も「需給検証委員会報告書」の想定より、はるかに多く可能なことを意味しています。
「需給検証委員会報告書」は、定着して節電分として102万kWを控除しています。この102万kWは、昨秋と今春の節電の平均である2.85%(88万KW)を定着した節電分と考えれば過小ではないとしています。しかし、これは対策無しでの節電分だけで、それに加えて追加対策をすることを排除していません。関電自体が、5月15日に追加対策を大阪府市のエネルギー戦略会議に提案していることがそれを証明しています。
追加対策としては、夏の逼迫時に電気を切る条件で割安の料金を適用する「需給調整契約」を増やしたり、大口需要家にピーク電力時間は料金が2倍になるような割増し料金を設定したり、逆に節電すれば料金を割り引くなどの対策も考えられます。
ピーク電力に寄与している電力需要は、業務(ビルなど)と工場の冷房空調で、こうした大口電力需要家との需要調整を戦略的に行うことを事前に調整しておくことが必要です。東京都は庁舎での2011年夏のピーク電力を、冷房温度28℃設定、ロビーなどの空調停止、窓際や廊下などの一部消灯、エレベーターの1/2 休止、自販機の休止などで、2011年夏ピーク電力は前年比29%削減を達成したと報告されており、こうした対策を大口需要家と調整しておくことも有効な対策のひとつです。
電力会社の給電司令所は、需給ギャップが起きないようにする系統運用を日常的に行っており、仮にピーク電力が予想を上回りそうな場合は、「需給調整契約」の供給カットで調整したり、大口電力需要家との戦略的な需要調整などの対策・政策を組み合わせれば、予想を超えるピーク電力にも十分に対応可能と考えられます。これを関電だけでなく、中部、北陸、中国電力と連携して行えば、より効果的な需給調整が可能です。
2-3 大飯3,4号機の再稼働は不必要
以上の通り、政府や関電の需給の想定は、需要を過大評価し、供給力を過小評価することで、ピーク時の電力不足を描き出し、大飯3,4号機の再稼働を必要としています。需給検証委員会報告書の想定は、追加対策のための資料で、これ以上節電や供給力増加ができないとするものではありません。この報告の「関電15%不足」だけ見て「15%不足」が「避けられない」、大飯3,4号機の再稼働が必要だとするのは、短絡的に過ぎます。
以上のとおり、CASAは、需要と供給を正当に評価すれば、7%程度の予備力を確保でき、大飯3,4号機は稼働させる必要はまったくなく、予想を超える需要にも対策・政策を組み合わせれば十分に対応可能と考えられます。
3 節電について地球温暖化は急速に進んでおり、その対策は喫緊の課題となっています。日本政府は2020 年25%削減目標を下方修正する方向で検討を始めたと報道されていますが、国際公約となっている25%削減目標を放棄することは許されません。
地球温暖化対策は突き詰めれば、省エネと再生可能エネルギーへのエネルギー源の転換しかありません。とりわけ省エネは有効な対策であり、そのための節電は地球温暖化としても進める必要があります。
しかし、夏のピーク電力不足の問題と、日常的な省エネ(節電)とは区別する必要があります。
ピーク電力時の停電などの回避は、極めて限定された時間の対応で、そのために原発を再稼働させなくても、十分対応可能です。
しかし、地球温暖化対策のためには、日常的な省エネ(節電)、即ち年間を通しての省エネ(節電)が必要です。全国でみると、大口需要家は休日・深夜労働シフトなど電力量が減らないピークカットを重視したため、家庭や小規模商店などの「電灯」、町工場などの「電力」、大規模工場・オフィスの「高圧」では2011年度に前年比5-6%の電力消費削減を達成したのに、最も規模の大きな需要家である「特別高圧」は3.5%しか削減できませんでした。大口電力需要家との戦略的な需要調整や、持続可能な節電対策(省エネ製品の普及、無駄な空調などの停止、効率化)などの「定着する節電」を戦略的に進める必要があります。また、節電策として、太陽熱温水器コジェネレーションなどの熱利用が重要です。家庭では、電力消費量を確実に増やすオール電化等を見直す必要があります。
4 再稼働をどう考えるか
CASA は、福島原発事故が未だ収束しておらず、事故の状況や原因がまったく明らかになっていないなかで、安易に原発の再稼働をすべきではないと考えます。仮に、定期点検中の原発を再稼働するにしても、最低限、以下の条件をクリアーする必要があると考えます。
地震津波、事故(経年劣化、人為的ミス、破壊活動等)などのあらゆる可能性を考慮した、安全性の確保と事故に対応した万全な防災対策の策定・実施。
政府が再稼働の基準としているストレステストでは安全性が確認できたとは言
えません。大飯原発は、防潮堤は平成25 年度、免震構造放射線遮へい性能を持つ免震事務棟や、ベントは平成27 年度完成予定となっており、安全性に重大な疑問があります。
②周辺の自治体及び住民の同意。
周辺自治体には、関西全域の自治体が含まれるべきです。大飯原発などの福井
県の原発が事故を起こした場合、愛知県、三重県を含む関西一円に被害が及ぶこ
とになり、とりわけ琵琶湖が汚染された場合、水道水として利用している1400
万人を超える人々が深刻な影響を受けることになります。こうした影響を受ける
ことが予測される範囲の自治体や住民の同意は不可欠です。
③国民的な十分な議論を経た原発政策の決定。
福島原発事故を契機にエネルギー政策の見直しが進められています。いま、福
原発事故を教訓に原発をエネルギー政策でどう位置づけるかを決めることは、
私たち現代世代の将来世代に対する責務です。エネルギー政策についての国民的
議論の結果を待つことなく、なし崩し的に再稼働を急ぐことは、未来の子どもた
ちに対する背信行為です。