中国の高速鉄道事故から1年

しんぶん赤旗7月23日付けより
中国浙江省温州市で40人の命を奪った高速鉄道事故から、23日で1年を迎えました。信号故障で停車していた列車に後続列車が衝突するという、現代の列車システムからは信じられない事故。その後、「スピード第一」が見直され、高速鉄道の開業計画も遅れていますが、事故の責任をめぐってはあいまいさも残っています。

 事故に関する政府調査報告は、当初の予定だった昨年9月から3カ月以上もずれ込み、12月末にようやく発表されました。

人災
 報告では、(1)列車制御システムの設計上の欠陥(2)信号など設備取り扱いについての運行担当者の重大過失(3)設備納入時の法に沿わない審査―が複合して起こった人災であることが浮き彫りになりました。
 この1年、中国の高速鉄道をめぐる状況には大きく二つの変化がありました。
 一つは「スピード第一」の見直しです。鉄道省は、事故当時の最高時速300〜350キロをそれぞれ50キロ下げて運行することとしました。
 「速く速く」と前のめりになって競うだけでいいのか―という自省の声の反映ともいえる措置でした。安全の前提ともいえる「慎重な運行」の結果として、この1年は人命にかかわる事故は起きていません。
 もう一つは、高速鉄道開通が軒並み遅れていることです。南北の動脈になる北京―武漢線、東部の主要都市を結ぶ杭州―寧波線はいずれも「2011年開通」とされていました。しかし工事や検査が長引き、いずれも「12年中には開通するだろう」という状況です。
 開通の遅れは、「慎重さ」という側面のほかに、鉄道省財政問題があります。
 「高速鉄道最優先」路線で資金をつぎ込んだこともあって、昨年時点の負債は2兆元(約25兆円)を超えています。金融機関からの借り入れが困難になっており、これも工事遅れの要因になっています。
 「事故↓安全への不安↓乗客数の伸び悩み↓収入の不安定化↓工事の遅れ」という一種の悪循環からどう脱するのかも重要課題になっています。
不透明
 一方、事故の責任をめぐって、政府の調査報告には後味の悪さが残りました。事故責任のほとんどが、昨年2月に「規律違反」で鉄道相を解任され、その後に中国共産党籍も剥奪された劉志軍氏に帰され、事故時の鉄道相は何の責任も問われないままでした。
 さらに劉氏の規律違反の中身と最終処分がいまだに発表されていないことも、不透明さを増幅させています。
 広大な国土の中国は、飛行機の利用拡大、バス網の発達はあるものの、全土を覆う「安全・確実な大量輸送」という面で鉄道はやはり決定的です。
 それだけに1年前の事故の痛切な教訓をどう生かすかは、中国の国づくりの上でも大きな位置を占めます。中国高速鉄道は今、正念場を迎えているといえます。