関越道のバス事故はなぜ起きたのか… 

         科学的な原因究明と安全対策をいまこそ! 4−3
○○○○○○−“逆立ち発想”を立ち止まって考え直す時−

3.今回の事故の背景と我々の疑問 
1.運輸観光行政(国交省観光庁)の責任はきわめて重大
国交省などは、消費者の利益(利便性と格安を含め選択肢の多様性)を口実に、「規制緩和策」(事業参入条件の緩和、運賃・料金の「自由化」、撤退などの「自由化」)を推進し、過剰供給状態を人為的につくりあげた。 
そして値下げ競争、中小交通機関の整理淘汰、経営困難、劣悪な労働条件を事実上放任してきた。今回の事故についても、運輸観光行政の責任はきわめておおきい。
事故の背景となる原因をつくり出しておきながら、「結果」については個別の責任で済ませる。運転手や、バス会社、旅行会社、会社社長などを「処分」はした。本質的な事故の背景分析、責任論を避け、安全第一に徹しておれば自明の事を新たな装いで「安全規制強化策」などとして提起し、悪質な事例を盾に、多くの旅行・バス事業者に対して自主監査(○×式レポート)なども含めて官僚的にその指導・点検を強めようとしているだけではないか。

2.「悪質業者」を公表し、バス会社の利用ガイドラインもつくるから利用者は活用せよと…
国交省より公表された「高速ツァー等貸切バスの安全規制の強化」(6/11)には、ツァーバス企画・運行会社への緊急重点監査の実施を公表、安全確保基準として乗務員の運転時間の見直し、旅行社・バス会社に取引内容の明確な文書化と保存の義務づけ、安全に関する適切な情報の提供として、「高速バス表示ガイドライン」「輸送の安全を確保するための貸切バス選定ガイドライン」の策定、周知を掲げている。さらに旅行業者による「安全運行協議会」の設置、旅行業者による利用者への安全情報提供の義務づけなども推進するとされている。こうした「方向性」がどのようにな実施状況にあるのかをまとめたのが、6月25日公表の「高速ツァーバスに係る緊急対策の実施状況」である。
特に、安全対策として有効で抜本的なものは見あたらない。関係事業者間の取引ルールの明確化、文書化、利用者への情報開示など本来自明のことのお色直しに過ぎない。 
 
3.そんな状況下の我々の疑問
①バス需要を含め、旅行需要は右肩下がりで減少しているときに、なぜ貸切バス事業者を増やし、台数を増やすようなことをしたのか…?
2000年から免許性から許可制になり貸切バス事業者が大幅に増えたが、95年頃からの国内旅行需要は一般的に人数も消費額も殆ど右肩下がりで、バス増車の必要性はあったのか。その傾向はその後10年も続く一方、バス事業者とバス台数は増加してきた。
国交省は、部内(総務省)から「ツァーバス」の問題点を指摘され、旅行業者への指導徹底を図るよう観光庁への通知勧告を受けたのに、なぜ事実上放置したのか…?
2008年10月 法令違反に旅行業者の関与が疑われる場合には、国交省観光庁に通知する制度を整備。2010年9月総務省は自らの調査にもとづき、速度違反や乗務時間違反を強制する旅行業者側の問題で、国交省から観光庁へ通知し旅行業者の指導の徹底を図るよう勧告した。
③自然や建造物、歴史・文化など、複数のものを組み合わせて、旅の企画として提供するのが旅行業者の仕事。「企画性」のない“ツァーバス”(単品企画)を企画(商品)としてなぜ認めたのか。
「単品主催」=運輸機関や宿泊施設などただ一つのものを旅行会社が自ら値付けして商品化すること。2005年以前は、主催旅行(=募集型企画旅行)とは、複数の施設・機関・商品を旅行会社が組み合わせて「企画性」のある自らの旅行商品として集客を公募することだった。当然、宿泊のみ(宿のみ)、移動のみを目的とする何の「企画性」もないバスを主催商品とすることはできなかった。
④「規制緩和」策そのものに事故の背景・原因の所在を問わないで、事故が起きると、なぜ、現行法による「法令違反」を細部にわたって指摘するだけに留まるのか? 
そうである限り、安全・安心にとって必ずしも「本質問題」とは限らない「軽微な問題」を問うペーパー上の点検・指導が今後増え、「点検のための点検」の状態を生み出すと危惧されるが… 人的資源の豊かでない事業者にとっては、点検のための点検、管理のための管理に過ぎないようなものへの負担の増大を招きかねない。
⑤前田国交相(当時)の5月16日の「要請」の第2項にある、早期に移行することとされる「新たな高速乗合バス」は、現状の乗合バスの現規制を緩和することではないのか?
今年4月、事故直前に発表された「『バス事業のあり方検討会』最終報告について」(国交省自動車局旅客課)には、移行について、「高速乗合バスと高速ツァーバス」のそれぞれの長所を活かし、『柔軟な供給量調整』や『柔軟な価格設定』等が可能な新たな高速乗合バス規制を導入」とある。同報告には、ツァーバスについて「急成長を遂げているが、様々な問題点も指摘されている」とある。しかし具体的な『長所』などはどこにも記述はない。
⑥「企画旅行」を実施した旅行会社に負わされる『特別補償責任』、と国交省報告(6/25)に言う「貸切バス事業者安全性評価認定制度」や「輸送の安全を確保するための貸切バス選定ガイドライン」を利用した場合の事故でも『特別補償責任』を旅行業者は負わなければならないのか?
不可抗力の事故が原因であっても「旅行者が募集型企画旅行参加中にその生命、身体又は手荷物の上に被った一定の損害について、あらかじめ定める額の補償金及び見舞金を支払います。」との特別補償責任。上記の場合でもそれを負わなければならないとなれば、その責任の根拠として旅行業者が交通機関等、利用設備を主体的に選択するからとされていたことと矛盾するのではないか。