バス旅行の安全強化 旅行業法改正

業界紙トラベルニュースより
今年4月の事故以降、高速ツアーバスの安全強化策が矢継ぎ早に打ち出されている中、7月下旬の旅行業法関係省令改正、通達が波紋を広げている。高速ツアーバスに限らず、貸切バスを用いた企画旅行、手配旅行すべてに関し旅行会社の安全確保の義務化に踏み込んだ内容だ。旅行会社とバス会社の書面取引も義務づけられた。業務の煩雑さや二転三転する国のバス規制を憂う声も聞こえる。
 近畿運輸局が7月下旬に開いた説明会には、JATAやANTA支部関係者、府県旅行業担当者ら約100人が参加。旅行業法関係省令改正や通達の周知を呼びかけた。
書面取引も義務化
改正のポイントは、バス利用者の保護と安全確保が主。(1)貸切バスを用いた旅行を実施する場合に旅行会社、貸切バス会社間の書面取引を義務化(2)旅行業務取扱管理者の職務に「安全」の文言を追加(3)旅行業法の禁止行為に、貸切バスの乗降場所の選定を追加(4)企画旅行広告の取引条件に主催旅行会社と利用貸切バス会社を明記―の4つ。
書面取引については、旅行会社と貸切バス会社が契約時の書面を双方が保管することを義務づけた。その書面には、社名や住所、連絡先はもちろん▽乗車人員▽バスの台数▽配車場所と日時▽旅客が乗車する区間▽運行経路と主な経由地の発車、到着日時▽運賃および料金の支払い方法―など特約事項を含め11項目にのぼる。書面は運送引受書とし、原則として貸切バスが運行するごとに作成し、運行終了後も3年間保存するよう義務づけている。
この改正は、先の事故で主催旅行会社と運行バス会社の間に複数の仲介業者が存在していたことから。運輸局担当者は「ハーヴェスト社と陸援隊が契約していたかも不明だった」。
また、旅行業務取扱管理者の職務については「旅行の安全を確保するため、貸切バス事業者の安全の確保に関する取り組みについて把握し、必要な場合には改善又は是正を求めること」「旅行の安全に関する各種法令・通達や安全性向上に資する取組み等について、貸切バス事業者との間で必要に応じて情報共有等を図ること」の2文を追加した。
同様に禁止行為では、貸切バスを利用した企画旅行で、旅行会社によって旅行の安全確保が阻害されるケースを想定している。例えば、スピード違反を強要するような無理な行程や、駐停車禁止場所での乗降などがそれに該当する。「道路交通法に加えて、旅行業法違反にもなるということ」という。
学校の遠足などで児童・生徒を乗降させる場合も、学校の周囲が駐停車禁止では乗降させてはならず、担当者は「校庭などでの乗降が望ましい」としている。
禁止行為ではさらに、これから秋の繁忙期を控える中で十分想定できることも該当する。当初契約していたバス会社がオーバーブッキングで配車できなかった場合、そのバス会社が別会社を手配するのではなく、旅行会社と別バス会社が直接契約する必要がある。それを怠ると取扱管理者の責任が問われることになるということだ。
募集型、受注型企画旅行のバスツアーを広告する時は、客に安全情報の提供しなければならない。実車走行距離や利用予定バス会社を明記することが望ましいとされ、バス会社については自動車保険加入条件、安全性評価事業者の認定なども求める。ただ利用予定バス会社は複数社の表記は認めている。
今回の改正については未だ通知が徹底できていない状況だ。複数の旅行会社に尋ねても「初めて聞いた」という人が多い。インターネットの販売が主の高速ツアーバスは、広告表示に対応している会社は多いが、パンフレットなどで募るバスツアーでは不記載のケースは少なくなかった。
旅行会社への周知が課題
近畿運輸局によると、旅行会社に書面を求めると困惑されるというバス会社の声が何例か寄せられているという。
記者の取材で初めて聞いたと答えた旅行会社社長は、お客様の安全確保は大前提とした上で、「規制緩和で貸切バスへの参入を大幅に増やし、一部の不良会社の存在で一転強化する。今回の改正は真面目にやっているごく普通のバス会社、旅行会社にとってはとばっちりをくらったようなもの。机上で決めているだけのような気がしないでもない」。そう言って、3年間も書類を保管するスペースがあるかなぁと、ため息をついた。
今回の改正は、特に都市圏における貸切バスの乗降場所の確保などインフラ整備が追いついていない状況もある。アジアからの観光客とおぼしき団体客が路上でバスを乗降するのを見ると、観光立国はまだまだ途上だ。