JAL再上場の“失敗の教訓”その3

岸博幸氏のダイヤモンド国富論より
 ついでに言えば、2010年12月に行われたJAL幹部への株式割り当ても不透明かつ不自然です。経営幹部の動機付けにしては金額が小さいし、より重要な動機付けを与えるべき従業員一般には何もやっていないからです。連結納税で納税額を減らすためにJAL本体の株主数を増やすことが本当の目的だったのではという指摘もありますが、それが事実なら、ここでも説明責任が果たされていないことになります。

企業再生委員長の注意義務違反?
 ところで、瀬戸氏については、機構の企業再生委員長というJAL再生の監督側のトップと、JAL管財人という再生の執行側の実質的トップの双方を兼任するという、利益相反となりかねない行動を取ったという問題もあります。

 この点については、“JAL案件では企業再生委員長の立場を別の委員に代行してもらった”と説明されていますが、仮にそうだとしても、機構という公的機関の組織法上重要かつ大きな力を持つ首脳の1人でもある委員長として、上述の問題に関する責任は免れないのではないでしょうか。

 かつ、機構にとってJAL案件は全投資の中で圧倒的な割合を占めていることを考えると、この案件で企業再生委員長の立場を別の委員に代行してもらっていたなら、機構の委員長としての職責を果たしていなかったとも言えます。

 東電の会長になった下河辺氏は、会長に就任する段階で原子力損害賠償支援機構(原賠機構)の委員長を含むすべての職責を辞しました。それと比べると、瀬戸氏は企業再生委員長を続けながら管財人のトップとなり、更生手続き完了後はJALの社外取締役にも就任しています。利益相反の状態を続け、結果として企業再生委員長としての職責を果たさなかったと批判されてもしょうがないのではないでしょうか。

 ついでに言えば、JAL案件や支援機構の重要ポストに瀬戸氏の出身事務所の約半数が関わっているのですから、ガバナンスやモラルといった観点も問われざるを得ません。

 なお、JAL再上場の準備局面では、いわゆる「親引け」という、一般的には透明性に問題がありと指摘されている手法でJALが安定株主作りを行おうしたことが報道されましたが、この問題についても瀬戸氏は、機構から派遣された取締役であるにも拘らず、JAL内部でガバナンス機能を発揮しなかったと言われています。