JAL再上場の“失敗の教訓”その4

岸博幸氏のダイヤモンド国富論より
 しかし、当然ですが、「親引け」を許したら公的再生に関わる国有資産売却の透明性と公正性に重大な疑義が生じます。それを懸念した関係者が奔走し、各方面を説得してこれを辞めさせたという経緯があることを考えると、機構とJALの両方の取締役として注意義務違反だった可能性もあるのではないでしょうか。

 ついでに言えば、政府の過剰支援による航空産業の競争歪曲問題については、JAL再生の当初から複数の識者がこの問題を指摘していたにも拘わらず、企業再生委員長の立場にある瀬戸氏は何ら手を打たなかったようです。その結果、株式が再上場されたらJALの時価総額が自力で頑張っているANAを上回るという異常な状態が起きることになるのです。

政府はどう責任を取るのか?
 以上のような“機構スキームによる公的再生の透明性、中立公正性に対する国民的信頼の毀損”という過ちに加え、結果として今回のJAL再生は“航空行政への政治家の介入機会”を作るという問題も惹起してしまいました。

 そもそもJAL問題の根源は、航空行政が政治的に歪められて非効率な運航が多くの路線で行われていたことにあります。その意味で、JALを優良企業にし過ぎて、政治家たちに「鶴の恩返しで赤字路線を復活させろ」などと本末転倒なことを言わせる余地を作ったという問題も大きいと言わざるを得ません。

 例えばカネボウダイエーの再生を行った産業再生機構では、透明性や中立公正性、更には政治的介入を許さないという点が強く意識され、実際に産業再生機構の当時の首脳陣は非常に慎重で厳格な組織運営、案件遂行を行ったので、JALでの第三者割当増資や政治介入のような問題は起きていません。

 瀬戸氏は国に3000億円以上の巨大な利益をもたらした大功労者と扱われ、そのまま企業再生委員長を続けるようですが、JAL再生の主役はJALの現場職員であり、稲盛さん以下の経営陣であり、支援機構の現場スタッフであり、大きな損失を受け入れた金融機関や旧株主です。瀬戸氏はむしろ、この大成功案件、そして日本の企業再生の歴史に汚点を残したのかもしれません。

 そう考えると、JALの株式再上場を機会に、政府は自らの責務を早急に果たすべきです。それは、競争歪曲の是正ガイドラインを策定するとともに、機構の体制を刷新することに他なりません。