震災と東京五輪 東北の共感得られるか

東京新聞社説から2011年7月15日
 二〇二〇年夏季五輪を招致したいと、東京都の石原慎太郎知事が意欲的だ。東日本大震災を乗り越えた元気な日本の姿を世界に披露しようと訴える。被災地の共感と協力が得られるのか気掛かりだ
 折しも、日本体育協会日本オリンピック委員会(JOC)の創立百周年記念の催しが十六日に都内である。石原知事はその場で内外に向けて二〇年大会の招致に名乗りを上げる見通しだ。
 一六年大会の招致合戦は、南米初を旗印に掲げたリオデジャネイロ(ブラジル)に敗れた。それに続く再挑戦となる。
 戦災からの復興を象徴した一九六四年の東京五輪のように、大震災からの再生を示そうと石原知事は唱えている。「世界中から寄せられた友情や励ましへの何よりの返礼となる」と語っている。
 しかし、ハードルは高い。地元のみならず東北地方の被災地が素直に共感し、惜しみない協力を約束してくれるかどうか。国内世論の盛り上がりがいかに大事かは前回の失敗で学んだはずだ
 「日々の暮らしもままならない。五輪どころではない」「東京を活気づけるのに東北をだしに使うのは許されない」。既にそういぶかる声が聞こえてくる。
 聖火リレーや競技の一部を被災地で、との案もある。だが、小手先の話だけでは全面的な賛同は得られにくいのではないか。地場の産業や観光、文化、教育などの立て直しにつながるくらいの計画と資金の裏付けが肝要だろう。
 五輪に向けての都心の街づくりも心配だ。大震災をきっかけに首都機能の移転や分散が論じられるようになってきた。それに水を差すようでは支持は広がるまい。
 東京都には招致のために積み立てた約四千億円の基金がある。しかし、五輪に投資するよりも首都直下地震に備えたり、被災地の復興に充てたりすべきだとの意見は根強い。財政難時代の巨費の使い方には慎重であってほしい
 二〇年大会の開催地は一三年九月に決まる。招致活動ができるのは二年余りだ。急いで原発事故を収束させ、水や食の安全を確保しないと不利になる。電力供給も落ち着かせる必要がある。
 一八年冬季五輪の開催地が平昌(韓国)に選ばれた。このことで、二年後の夏季大会を同じ東アジアの東京に引っ張ってくるのは厳しいとの見方もある。
 なぜ東京で復興五輪なのか。石原知事とJOCには、その意義を繰り返し説き続けてもらいたい。