安全より利益を優先した787運航再開

Business Journal2013/5/21より要約
B787、なぜ事故原因未特定のまま運航再開?訓練飛行中のトラブル発生も発覚
 米ボーイング社は5月14日、最新鋭機787の納入を再開した。米連邦航空局(FAA)による運航停止命令を受けて1月18日に納入を停止して以来、約4カ月ぶり。納入再開の第1号は787の最大顧客である全日本空輸
 787は1月、米ボストン国際空港に駐機していた日本航空JAL)のバッテリーから発火した。その直後に、飛行中の全日本空輸ANA)機が煙を出し、高松空港緊急着陸するトラブルが起きた。FAAと国土交通省は1月16日に、実に34年ぶりとなる運航停止命令を出した。
 これまでの調査でバッテリー内部のリチウムイオン電池が異常に過熱し、制御不能となる熱暴走が確認された。しかし原因については依然、解明されていない
 FAAはボーイングが提案した電池の改善を施すことを条件に787の運航再開を4月19日に認可した。これを受け国交省も、787を保有するANAJALの運航再開を認めた
 問題となったバッテリーの発火原因は特定されていない。それなのに、なぜ、運行再開を急ぐのか。再開に踏み切った理由は単純明解だ。収益の機会を逃さないようにするため。ボーイングの経営をこれ以上、悪化させてはまずいとの、政治的判断が働いたということだろう。
 ボーイング社発表の第1四半期(1〜3月)決算は、売上高で前年同期比3%減の約1兆7900億円、営業利益は同2%減の約1450億円。にもかかわらず純利益は同20%増の約1050億円。1〜3月期は777の生産を月産8.3機に、737は同38機に引き上げたことにより、787の引き渡し中断による大幅な減収を回避した。
 787の早期の納入再開を前提に13年12月期の通期見通しは据え置いた。引き渡す機数は635から645機。このうち787は60機以上を予定している。FAAは4月19日にボーイングのバッテリーの改修プランを正式に承認していた。
 運航中止が長期化すれば年末までに予定していた60機の引き渡しは不可能になる。ボーイング社は大幅な減収、赤字転落、そして株価暴落の恐れがあった
 納入再開で巨額の開発費、生産投資を回収するメドがついた
 今後の焦点は787の補償問題に移る。欠航による損失の補填のほか、停止中に待機していたパイロットの人件費や振り替え便の使用料などについて航空会社と個別に交渉する。
 787を17機保有しているANAは、1〜3月の運航停止による営業利益の押し下げ分は35億円。7機を保有しているJALは13億円の営業減益となった。
 ANAは4〜6月の3カ月間まるまる停止すると約40億円の減益になるとした。JALは4〜5月の停止を前提に約26億円の減益を織り込んでいる。
 運航停止処分を受けた1月16日から5月末までの影響についてANAは売上高が125億円の減少、JALは65億円の減少になるとの見通しを明らかにした
 ANAJALとも「業績への影響は軽微」と説明しているが、ANAの株価は低空飛行を続けており、5月16日にやっと年初来の高値、222円をつけた。この半年で日経平均株価は7割高となったが、ANAはカヤの外だった
 安全を置き去りにしたまま、FAAと国交省が運航再開を許可した。再び、バッテリー事故が起きたら、その責任は誰が取るのだろうか
 運航再開に向けて訓練飛行中の全日空B787で、5月4日、電気系統の配電盤の一部が熱で損傷するトラブルが起きていたことを、全日空は16日になって公表した。配電盤を点検したボーイング社の整備ミスによるもので、事故後、改修したバッテリーシステムとは無関係だと説明している。羽田→新千歳に向けて飛んだ787機が到着後の点検で、配電盤の端子と、その周辺が黒く変色していたという。