『2013年版 神戸市政を考える』−住民本位の市政に向けて−

10月13日告示、27日投票で行われる神戸市長選に向けて表題の冊子が、兵庫県自治体問題研究所と神戸市政研究会から刊行されたのを記念してミニシンポジウムが神戸で開催されました。
冊子は、9つのテーマを執筆者25人が分担して「市民の立場にたった市民目線の研究」としてまとめられ、市政を考える材料を提供し市民の実態と市政のどこが問題なのかなどを客観的に示したものになっています。
国際ツーリストビューローも、「神戸の観光の問題点と活性化」と題した一文(下記)を提起しています。
冊子は、B5版92頁で販価は500円です。


写真上は国ツー事務所に挨拶に来られたぬきなゆうな市長選候補者


神戸の観光の問題点と活性化
          松岡 武弘 労働者協同組合 国際ツーリストビューロー理事
1.観光のあり方−五つの逆立ち!
観光分野の行き過ぎた規制緩和による競争激化の下、観光活性化がさほどの成果が上がらず、一方で事故、トラブルが多発しています。“神戸の観光”も次の“観光のあり方”を問題意識として考えてみます。
誘客競争より、価値を認め合った文化交流が、地域活性化の力。
大規模「観光開発」でなく地域の価値の総体が日本の国の個性に。
空港や交通等インフラ整備による需要増大は一時的で持続性に疑問。
安全対策は規制緩和をやめること。罰則強化より労働環境改善で。
「格安価値観」の蔓延はなぜ?安全性、旅文化、生活、人権は…

2.矢田市長の12年間、神戸の“観光”は…
(1)全国の観光需要は右肩下がり
 矢田市長の12年間は、国民の旅行需要が右肩下がりで減少を続けていた時期と重なります。阪神淡路大震災を契機に、15年間で国内旅行者数(宿泊)が9.7%、消費額が25.3%(2009年)も落ち込みました。その顕著な時期は、新自由主義的「構造改革」を強行した小泉政権の時期と見事に重なっています。
(2)国の訪日誘客はアドバルーン
 その間、13%増の海外旅行者数も、消費額では27.2%も激減。観光庁は、その原因の究明抜きで、それまでの海外旅行奨励策VWC(VISIT WORLD CANPAIGN)から一転、訪日誘客VJC(VISIT JAPAN CANPAIGN)に乗りだし、10年の到達目標を約1.5倍の1,000万としたのです。これも期限内に達成できないまま、「新成長戦略」(10年6月)では、期限を延ばして2,500万、3,000万目標をうちあげます。
(3)神戸市も“活性化”とは誘客事業とばかりに… 
神戸市も、内外からの誘客増を最重要策とし、空港島造成、神戸空港建設、ポーアイ2期工事、巨大バース建設等インフラ整備や神戸マラソンビエンナーレルミナリエなどイベント開催を続けました。その結果、神戸への観光入り込み数は、09年には3,015万になり、ポートピア81以来28年振りの大台に乗りました。
(4)観光関連の外郭団体の破綻、市の責任は重大!
 関西空港を結ぶ海上アクセスは、市は民事再生手続きで159億円もの出資金・貸付金をすべて帳消しにしようとしています。航空交通ターミナルも昨年3月の特別精算申請で市の負担は27億円に。昨年9月には、舞子ビラの負債101億円を、信託銀行団、運営会社などの責任を問うことなく公費負担すると発表。遡れば、土地・建物を神戸港振興協会と市が7:3で共有していたタワーサイドホテルも08年10月8億2千万の負債で破産申請。観光関係のこの4件だけでも市民の税金295億円が消えてしまったのです。 
(5)創造都市ネットワークデザイン都市認定には認定されたが… 
08年10月、神戸市はユネスコに認定され、「住み続けたくなるまち、訪れたくなるまち、そして、継続的に発展するまち」をめざすとしました。しかし、敬老パスの有料化・値上げ、保育所の民営化、借り上げ災害住宅からの追い出し、中央病院、こども病院の災害危険地への移転など、市民、高齢者を犠牲にする冷たい政治の一方で、神戸空港の完全な失敗、先端医療技術ゾーン構想の失敗、新長田再開発問題での無責任な放置など、デザイン都市認定とは似ても似つかぬ重大な失政を続けています。
(6)『神戸観光プラン』の目標は過大! 
市の人口減少見通しを前提に都市活性化を図る目的で、11年2月、「神戸観光プラン」(期間5年)を策定しました。今、全国各地で、地元の魅力再発見、「観光まちづくり」など、誘客活動が地方活性化の切り札として取り組まれています。しかし、いま庶民の懐と地方経済は疲弊しきっています。地方が互いに限られたパイを誘客で競いあい「体力」を消耗しあうことが、理に適った「活性化策」とは言えないでしょう。  
最終年15年の来神者目標を約400万増の3,500万と、外国人旅行者数100万目標はほぼ倍増です。諸情勢を考慮するなら、過大と言わざるを得ません。

3.内外から尊敬される国際観光交流都市をめざして 
(1)“旅は平和へのパスポート”(国連提唱)積極的に実践を!
 観光は平和でなければなりたちません。また、国際交流は平和を育みます。67年国連はこのことを“Tourism, Passport for Peace”として“国際交流の特別の役割”を世界に訴えました。
日本は、世界唯一の平和憲法条項、第9条を持つ国であり、神戸は世界に誇る“非核神戸港方式”採用の港。“国際平和観光交流都市”として、観光と平和をつなぐ活動の最も価値ある持続的な実践者であるべきです。
(2)“訪ねる側と迎える側”、双方向の文化交流にこそ価値が! 
観光が“事業”として経済政策に従属し始め、観光庁は、「国内観光地に国際競争力を!」などと、新自由主義の観光版よろしく“競争力”を煽ります。有意義な誘客策は必要ですが、数値目標に拘泥せずに市民の自主性、住民としての誇り、まちづくりなどのエネルギーと結びついた誘客策をこそ支援すべき。また、市として内外の友好都市などとの文化交流、相互訪問などを進め、双方の学び合い、友好深化を図ってこそ、“観光・交流”が未来に向かって持続的な価値が生まれます。
(3)住民に“あったかい市政”が観光・交流、活性化の基本です!
 観光交流は人と人とのふれあいがその印象、感動を決定づけます。迎える側の心からのおもてなしの笑顔に出会えて訪問者も豊かな気持ちになれます。
 迎える側が、地元の景勝地を自慢し、貴重な歴史遺産を語り、地元特産品をすすめ、そして住みやすさを誇りに思う、そんな住民の生活のありようが大切です。それは、大企業、中央資本による利益本位と事業拡大のための「歓迎」 とは違うはずです。
(4)行き過ぎた「規制緩和」を止めさせ、自治体独自の安全対策を! 
バスや航空機の重大事故が相次いでいます。国は、企業の自由な経済活動のために諸々の規制をなくし、「資本の自由」「安全二の次」をつくり出しました。国の所管事項で不十分な安全規制のもとでも、自治体としてその実効性を増す手だてをとるべきです。
東京、神奈川、埼玉、千葉は「排ガス規制基準」の未達成ディーゼル車は03年10月から域内の走行を許してません。神戸市も、運航再開以降もトラブル続きのB787機を当面神戸空港に着陸させない措置や、ドライバーの走行制限、2人乗務など必要な安全基準を満たしている「証明書」の提出を入域の観光バス等への義務づけも考慮するべきでしょう。
(5)「格安価値観」の蔓延に警鐘を鳴らし生活と文化の破壊を許さない! 
過剰競争を背景にした「格安価値観」が観光の世界にも蔓延しています。航空運賃、JR運賃、ホテル代など…。「格安」競争の行き着く先は、人件費削減、不安定雇用の増加、安全対策費の削減とあきらか。
シェア拡大のため安全を軽視して格安に走る事業体への警告、域外からの参入規制など歴史と伝統ある文化都市神戸を守るための“防波堤”をつくるべきです。
(6)交通インフラでは需要創出はできない! 
神戸空港建設強行から丸7年。開港1年前の日、NHKテレビから旅行業者として取材を受けて話した内容は、賛否が拮抗し路線・便数も決まってない中で、期待、歓迎はできない。都心から近いという点は便利だ。空港が需要拡大の起爆剤になるか疑問。活性化は神戸自身の魅力を掘り起こし発信し、市民・業者が潤う不況打開策が基本。空港をつくってから需要増大策を考えるのは順序が逆…など。
(7)神戸空港は廃港すべき! 
開港時、新千歳、仙台、新潟、羽田、熊本、鹿児島、那覇の7路線が、現在は、開港以来の新千歳、羽田、鹿児島、那覇に茨城、長崎の計6路線だけ。搭乗者数は初年度274万から241万(12年度)に減少。(開港時の見込は13年で403万)途中参入の成田、福岡等も既に撤退、復活した熊本も撤退。JALが10年完全撤退し、AMXも2年余で撤退し、今やANAとSKYの2社の就航。SKYが搭乗者の65%をまかなっています。5月から那覇線でANAとSNAが共同運航。6月から新千歳線ANAとADOが共同運航。さらに来月からはANAが羽田便から1便撤退。
以上は、路線、便数、搭乗者などからみたこれまでと現在ですが、神戸空港は“需要拡大の起爆剤”どころか、市財政を破綻に、市民生活をいっそう窮地に追い込むもの。すでに導火線に火がついています。
“廃港”しか選択肢はありません。