B787、再開後もトラブル相次ぐ…2週間足らずで8件

産経新聞 6月13日(木)7時55分配信
ボーイング787の運行再開後のトラブル(写真:産経新聞

 ■バッテリーとの関連は…徹底調査求める声
 バッテリートラブルで運航停止となり、今月1日から定期便運航を再開したばかりのボーイング787で、またもトラブルが相次いでいる。再開から2週間足らずで8件のトラブルが発生。12日にも山口宇部空港山口県)で羽田行き全日空692便が出発の際に右エンジンが起動せず、欠航した。運輸安全委員会は運航再開後のトラブルについて「バッテリーの異常だとは思っていない」としているが、徹底した調査を求める声も上がっている。

 B787をめぐっては今年1月、米国でバッテリーから出火。日本でも全日空機でバッテリーから発煙、緊急着陸するトラブルがあった。日本航空全日空は1月16日からB787の運航を停止。その後バッテリーを改良、今月1日から定期便が再開された。

 「再発防止策は万全」。そう安全性をアピールしていた日航全日空だが、トラブルは初日から発生した。羽田を飛び立った全日空619便の客室で異常音が発生、安全点検を行い、折り返し便が1時間以上遅れた。2日にもトラブルがあり、太田昭宏国土交通相は4日、両社に全機の点検とチェック体制の検証を指示したことを明らかにした。

 その後も、10日に福岡空港で左エンジンに不具合が見つかるなど、トラブルが続いている。両社は「バッテリーとの関連性はない。同様のトラブルは他の航空機でもある」と、安全性を強調。運輸安全委員会の工藤正博・首席航空事故調査官も「B787でちょっとしたことが起きると目につきやすい」との見解だ。

 しかし、B787の運航に関しては慎重論も残る。バッテリーの改良は行ったが、改良の詳細が製造元の米ボーイング社から示されていないためだ。このため、航空各社のパイロットらでつくる日本乗員組合連絡会議(日乗連)は、徹底した情報公開をボーイング社などに要望している。

 日乗連の長沢利一理事は「福岡空港のエンジントラブルは一般の航空機でも起こる」とする一方で、「B787は人間の神経のように電気系統が複雑に延びている。調査をしないとバッテリーと全く無関係とはいえない」と、徹底した調査の重要性を指摘している。

 航空安全コンサルタントの佐久間秀武氏も「バッテリー出火の原因がはっきりしない中で飛ばすのは問題。ボーイング社は全ての情報を公開すべきだ」と話している。

疑問が残る「B787」運航再開 原因特定されぬまま…
配信元:
2013/05/11 10:26更新
【一筆多論】
 先月、米ボーイング社の最新鋭中型旅客機「B787」の運航再開が承認されたが、これには納得できないところがある。発煙トラブルの原因が特定できないまま、飛ばすことになるからだ。

 B787は今年1月16日、飛行中の全日空機がコックピット床下のメーンバッテリーから出火し、高松空港緊急着陸した。その1週間ほど前にも米ボストン国際空港で日航のB787の補助動力用バッテリー(機体後部)から出火するトラブルが起きていた。

 相次いだ出火トラブルに米連邦航空局(FAA)が運航停止命令を出し、米運輸安全委員会(NTSB)と日本の国土交通省運輸安全委員会が調査に乗り出した。

 この調査によって熱暴走という連鎖的な異常高熱が発生していたところまでは分かったものの、なぜこの熱暴走が起きたかがいまだに解明できない。ボ社は約80の原因を推定し、それらに対応できるようにバッテリーを改良した。FAAはこの改良を認め、4月26日に運航停止命令を解除した。その翌日にはエチオピア航空が世界で初めて運航を再開。国交省も運航再開を承認し、全日空日航は6月にも定期便を再開する。

 熱暴走の原因を特定してから飛ばすべきではないか。NTSBも運航再開を了解してはいない。運航停止が続くとボ社や航空会社の損失が膨らむといっても、無理をして事故を起こせば元も子もない。何よりも乗客が不安だ。事故調査開始から運航再開の決定まで3カ月余りしかたっていない。時間をかけて出火原因を突き止め、再発防止策を万全に施したうえで運航再開を決めてほしかった。

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 国交省の幹部は「過去にも原因が不明なまま運航を再開したケースがある」などと強調するが、一部品の故障ならともかく、出火したバッテリーはB787にとって設計思想に関わる心臓部だ。
 そのバッテリーにはリチウムイオン電池が使われている。リチウムイオン電池は軽量小型にもかかわらず、パワーが大きい。燃料の消費を抑えるために空調や一部の飛行システムを電気で動かすB787の緊急時などにうってつけで旅客機として初めて採用した。
 しかし、燃えやすい有機溶媒を使い、安定性が悪い。ノートパソコンや携帯電話で異常過熱したことがある。最近では電気自動車で発火している。航空専門家によると、B787の開発実験中にリチウムイオン電池が爆発したこともあったし、ビジネス用小型ジェット機でも発火している。離着陸時の衝撃や飛行中の温度差など環境変化の激しいなかを飛ぶ航空機には「難しい」との指摘もある。
 ボ社は航空会社の求めに応じてB787の燃費の向上をとことん追求した。欧州エアバス社との競争に打ち勝つためにはそれが必要だったという。その結果、ジャンボ機の数倍もの電気が必要となり、リチウムイオン電池を搭載した。だが、そのリチウムイオン電池に未知の部分があり、出火トラブルが起きた。
 経済競争に打ち勝つことに気をとられていると、思わぬ落とし穴にはまる。こう技術革新の分野ではいわれるが、B787がそうでないことを祈る。(論説委員 木村良一)